秋の夜長の怪談話

神宮明葵

秋の夜長の怪談話

「今日の夜、第3倉庫に集合な」



突然そんなことを言われた今は昼休み。今日の夜とはまた急なことだ。予定が入っているとは思わないのだろうか。…まあ予定は入っていないし、突然行動するのもあいつならいつものことである。

しかしなんだって夜なのだろうかと多少の疑問はあったが、行ってみればわかるだろうということで午後の講義を終わらせ、夜まで待った。





所変わって第3倉庫前。ちなみに夜とは言っても真っ暗ではない。窓から外を見れば街の明かりが目に入るし、構内にある建物には明かりがついているものもある。



「で、俺たちを集めた理由って何だ?」



こんな夜に、いつもつるんでいるメンバー4人を集めたのだ。理由が無いわけが無い。どんなつまらない理由であってもだ。



「理由って…怪談をするためだよ」


「怪談?こんな時期にか」



今の季節は秋、というかもうそろそろ冬になる。納涼のための怪談ならまだ話は分からんでも無いが、そんな時期はとっくに過ぎている。明らかに季節外れだ。



「そう。もう秋も終盤といってもまだまだ昼は暑い。…こともある。ていうか怪談を夏にしかしてはいけないという決まりはないからな。別にいいだろ、いつやったってさ」



とのことだが、ただ単にいい怪談話を聞いたからそれを聞かせてやろうとしているようにも思える。まあ、こいつは知ったことは何でも話したがる口だからな。怪談では無いが、こうして急に色々と話し出すことは今までにもあったことだ。

別に聞くことによって不都合があるわけでもないし、何より…



「怪談!?最近そういうの聞いてなかったからいいじゃん!」


「ま、まあ?べ、べべ別に怪談とかここ怖くもないし?きき聞いてみてもいいよ?」



とまあ他の2人も乗り気だし、まあいいだろう。…いや1人は違うか。



「よしじゃあ決まりだな!今夜は俺のとっておきを披露するぜ!

てなわけで。ここからはお前のスマホで動画を撮ってくれないか?」


「別にいいが…どうしてだ」


「というかそんなことしたら良からぬものが映ってしまうかも知れないぞ…」


「いやいや、それが目的だ。もし映ってくれたらさらに恐怖体験ができることだろう。当然、その分俺たちは涼むことが出来る」



さらに怯えだす奴が一名。…本当に大丈夫だろうか。



「まあ、とりあえず撮っとけばいいんだな」


「よろしく頼む」





てなわけで第3倉庫の中に入る。そこそこに狭く、色々なものが乱雑に置いてあり…まあ、雰囲気はある、かな。



「よし、じゃあ話そう。まずは1つ目だ」



え、何個もあるの?





「これから話すのは俺の体験談だ。だから特別怖いというわけでもないから、まずは気楽に聞いてくれ。」



そして話し始める。



「最近あったことだ。俺は自分の家で漫画を読んでいたんだ。ちょうどホラーサスペンスものだった。そうして読むこと数時間、目を休めるために窓の外へと目を向けた。すると、窓ガラスに張り付いて俺の部屋をのぞき込んでいる奴と目が合ったんだ。慌てて目をそらせてから、また窓を見たんだがそこには誰もいなかった。」



「」ガタガタガタ



大丈夫か。すでに震えすぎだろ!



「それってお前の部屋が1階にあったっていうオチじゃあ…ないよな」


「もちろん。俺の家はマンションの4階で、部屋にベランダはない。

1つ目はこんなもん。これはまだそんなに怖くなかったかもな」


「ちょっと涼しくなったかも」


「だな――って!?」



俺のスマホに一瞬、白い霊らしきものが背後に映りこむ。

だが、すぐ姿は見えなくなった。



「ん?どうかしたか?」


「あ、いや…なんでもない」


「?そうか」


「なあ、今のが1つ目なら、まだ話があるの?」


「ああ。といってもあと一つだ。あんまり長い間この場所にいられるわけでもないからな。じゃあ、話すぞ」





昔、とあるところに青年の芸術家がいた。彼の作品は独特なものが多かったが、世間からの評判は高く、数多くの作品を生み出し続けていた。

そんなある日彼は逮捕され、監獄に入れられてしまった。何故か?理由はわからない。当然彼は怒り狂い、何とか脱獄しようとし続けたがそれは叶わなかった。そんな状態でも、彼は作品を作り続けた。

その繰り返しにもいつか終わりが来る。彼は処刑されたのだ。怒りや憎悪をその胸に抱いたまま。

それから数年後、その施設は監獄としての役目を終えた。そしてそれを改築し美術館が建てられた。展示してあるのはもちろん彼の作品。その美術館は彼を悼む目的もあったのだとか。




「何だか…悲しい話だね」


「まあ待て。本番はこれからだ」




ええと、さっきの続きからだな。その美術館なんだけど、ある日事件が起こった。なんでも夜になると美術館内に奇妙なものが徘徊している、というものだ。最初は、発見者の見間違いだと思って美術館のオーナーは無視していたが、それが毎晩毎晩おこるようになったというのだから、流石に無視せざるを得なくなった。そしていつまでも消えることなき奇妙なものを恐れるようになり、夜の美術館への立ち入りを禁じ、オーナーのみが夜美術館に留まり、様々な美術品の管理を行うことにした。

そんなある日の夜、夜の美術館に現れるとされているモノを見ようと警備員は閉館後も美術館に留まり、見回りを続けた。

――見えたのは歪なヒトガタ。分かったのはそこまで。そいつに見つかってしまったが最後――



翌朝。オーナーと警備員は姿を消した。



その噂が広まり、やがて美術館には誰も近づかなくなった。事実上の廃館となった美術館だが、一部の美術品が残されていることから「誰もいない美術館」と呼ばれるようになった。

長い年月が経った今でも、夜な夜な奇妙なもの達は美術館を徘徊し続け、獲物を待ち続けている……





「この話はこれでおしまい。どう?怖かったか?」



お前の凄くやりきった感のある顔が目に映る。…今回はカメラには何も映っていない。


俺はほっと胸をなでおろす。



「ああ、そうだな。十分涼しめたよ」


「ナニモキイテナイ…ナニモキイテナイヨ…」ガクブル



お前は怖がり過ぎだろう。だがこういう奴がいてくれた方が話す人としては嬉しいのだろうけど。



――ガチャン



?何の音だ。ふと、音がした方を見やる。ドアの方から音がしたということは


「守衛さんか。せめて中に誰かいるか確認してから鍵かけてくれよな」


ここのドアの鍵は内側からかけられるようになっているから閉じ込められたということはない。ないが、なんだ、この、嫌な予感は。


「もう今日はこれで終わるか」


その言葉に従い、俺らは立ち上がる。そして感じる、違和感。


なにかおかしい。なんだか――暗い。窓から差し込んでいるはずの明かりがない。

慌てて窓へと視線を向ける。その視線の先には――ヒトガタ。



「ッ!!?」



いや落ち着け。これもあいつの仕込みかもしれん。俺たちを驚かすための。



「なあおい…窓のあれって、お前がやったのか?」


「窓?俺は何も――ッ!?」



言葉の途中でヒトガタを見て固まった。

とにかく今がヤバイ状況ということは分かっているのに、それだけだ。どうするべきかなんて分からないし、体が動いてくれない。


――ああ、ヤバイ。ヒトガタが窓を開け、俺たちのいる場所に近づいてきている。目の前の光景を理解できるが行動に移せない。



『そいつに見つかってしまったが最後――』



視界が真っ暗になる。










「――ッ!!」



顔を上げると、見慣れた講義室。窓から夕陽が差し込んでいる。

夢、だったのか。

マジか、あんな気味悪い夢見ちまうとは。俺の想像力が逞しすぎる。



そうか、夢だったか。それなら――




今、俺の肩に乗っている生気のない手と背後に感じる気配も、夢なのかな――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

秋の夜長の怪談話 神宮明葵 @Akicas

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る