第3話 4カ国会議 2

「すまん! アイネ」

 ロメリア大使館の一室で、リグビーがプリン・アラン・モルデンに頭を下げた。

「殿下、ここではプリンとお呼びください」

「ああまたうっかり。オレというヤツは、五十を過ぎても直情径行でいかん」

 アイネは、リグビーの方をバンバン叩いた。

「いやぁ殿下。グッジョブグッジョブ! いつもどーりのすばらしい人間臭さでしたよ!」

「お前さんはいつもそうやって叔父をバカにして。ああそうだとも、【なめられ役】をさせたら、我が一族でオレが一番だとも」

「まぁまぁ!」

アイネは、この人の良い叔父がとても好きだったので、肩をもんだ。

「いたい肉つかんでる! お前肩もみ下手!」

「ロイヤル肩もみにケチつけないで!」

リグビーは、ため息をついた。

「まぁ我が一族は変人ぞろい、誰が代表をやってもあんなものか。しかし、アイ、プリンよ、とうとう行き着く所まで行き着いた、というべきかな。まさか三国同時に集団発狂するとはな」

「それは私も思った。いくら三バカでも、あんな事言ったら、ロメリアが反対することくらいわかるだろうに。もともと発狂してた脳が発酵したんかいな……あっ、ヤバい、そうだ、【そうなるに決まってる】」

「? どうしたプリン殿」

「やば、叔父さん、龍に友だちいたよね?  今すぐ呼べる?」

「無理だ。ローバーン殿はここよりはるか彼方、いと蒼きノーストラウンの頂きで雲を食んでいるだろう。ここはアドリーデン、アドリエルの首都だぞ」

「アドリーデンにロメリアの工作員ってどのくらいいるん?」

「わからん。わしも国を起つ前にギルダーくんに聞いたんだよ、工作員の連絡先を教えてって」

「え、叔父さん何でそれ聞いたの?」

「ぱぁーっと飲みに連れて行こうと思ってな! 日頃の労をねぎらう感じで」

叔父の能天気ぶりに戦慄しながらアイネは言った。

「……ギルダーさん、怒ったでしょ」

「『ペッ!』って目の前でいきなり痰吐かれたよ。でもギルダーくん怖いから、わしもびびって引き下がったね! で、工作員がどうした?」

「叔父さんが連絡先知らないならもういい」

アイネは親指を強く噛んだ。指の先からにじみ出る血をグラスの水とまぜあわせると、リグビーにグラスを手渡した。

「叔父さん、グラスに手でフタをして、とにかくシェイクしまくって」

「よし!」

リグビーは何の迷いもなく姪の言う通りに動いた。彼はアイアンネルの能力を信じ切って。

「工作員だけに届けるには……ロメリアの地を踏んだ者…いやちがう、ロメリアの水、ロメリアの…んー、条件が」

「コレいつまでやんだぁ!」

アイネは叔父をみた。

(そうか!)

そして解決した。

『【ロメリウスを愛するもの】』

アイネの呼びかけに、リグビーの持つコップが光り、血と水が消えた。

『我はアイアンネル・ソーマ・ロメリウス、我が言葉を王に届けよ』

大勢の声が外から響き、窓を突き破って石が投げ込まれてきた。

「うお! なんだ!」

『三国は世の悪を、すべて黒き者の仕業とし、』

バリンバリンと窓を割り、次々と石が部屋に投げ込まれてくる。

『かの門を再び開け、時の果てに出兵せんと企てり』

リグビーは呪文を唱え続けるアイネを抱えて、部屋を飛び出した。

「ものども出あえ、出あえ! なぜ誰もおらん!」

大使館には警備の兵も使用人の姿もない。

『ロメリアは戦の準備を。つわものを国境に揃え、龍に呼びかけ、ロメリウスの血の者を隠せ。我に構うな』

整然たる調子で、軍靴の音が近づいてきた。

武装した兵士たちの先頭に立つのは、

「アドリエル代表」

『我はすでに』

アドリエルの代表、フォロ・ヒューマンは、笑った。

「ああご無事でなによりでした、リグビー代表、いえ、リグビー・リドリー・ロンビル王弟殿下。そして…」

フォロ・ヒューマンは、とっておきのデザートを見つけた様に、アイネを見た。

「アイアンネル・ソーマ・ロメリウス姫殿下」

『我はすでに……とりこなり』

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「狡猾なる」ロメリウスの末裔 小説マン @nakamurayusuke

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