第2話 4カ国会議 1
アドリエルの代表が言った。
「ロメリア代表、リグビー殿。貴国のご意見をお聞かせ願いたい」
ロメリア代表、リグビー全権大使は言った。
「断じて反対。話にならん」
『アドリエル』、『オムライファ』、『ライオネス』三国の各代表が、互いに目配せをした。
「ロメリア代表…」
「我が国は、断じて反対だ。『黒き戦』が終わって500年、太平の世は続いてきた」
リグビーは三国の代表一人一人を丁寧ににらみながら、言った。
「あなた方三国は、いったい、なにゆえに、【そのようなこと】をやられるおつもりか」
ライオネス代表が、ニヤニヤして答えた。
「【そのようなこと】とはひどい言い草。ロメリアと我が三国とは、ずいぶんと見解の相違があるようですな。太平の世と申されたが、黒き者の眷属どもが至る所にはびこり、闇の勢力は増すばかりである」
オムライファのサムライどもが、ウンウンうなずく。リグビーはサムライが嫌いだった。
「さよう。ここ数年の怪物共による被害は尋常ではない」
さらに、とライオネス代表が続けた。
「3年前は大竜巻、一昨年は大地震。その影響で人死が多く出ました。天変地異に闇の一族の蠢動、これでも天下太平と言い切るとは、さすがロメリア、世に聞こえし勇猛大胆さですな」
「天災により、未練を残して死んだ者は幽鬼となり、人を襲う。闇の勢力うんぬんというより、これは自然の摂理、しかたのないことだ」
「竜巻や大地震がしかたない!? そう申されたか!」
オムライファ代表が、大きな声を上げた。リグビーはサムライが嫌いだった。
「天変地異はかつてない規模でこの世を覆っている。まちがいなく何かの力が働いておるのだ!」
すると、ライオネス代表が、高い声で続けた。
「例えば、どこかの国のご親戚、の仕業ですかな」
何も帯びていない腰に手をやりかけたリグビーの手を、隣に控えた女がおさえた。
『殿下』
『プリン殿、わかった落ち着く、そういや剣もなかったし、もう落ち着いたし。うん、マジで。離して』
ロメリア外交次席大使、プリン・アラン・モルデンは手を離した。
おほん、とリグビーは咳払いをして続けた。
「今のは我が国の祖、ロメリアスの名をおとしめる発言ですかな、ライオネス代表」
「はて? わたしは具体的にはどことも」
「聖なるバンタイルの神々もご照覧あれ! 国父ロメリアスの兄は、たしかに暗き一族の長となった。だが、かの敵の常世の肉体を最後に砕いたのはロメリアスの槍【】ではないか。幼稚な当てこすり、深遠なる賢者ライオネスが嘆かれようぞ」
「ロメリア代表、賢者ライオネスの名は神聖なもの。貴殿に口にしてほしくないですな」
「ロメリアの人間が口にすれば、賢者の御名が汚れるとでも言うおつもりか!」
「まあまあ! みなさん落ち着いて落ち着いて」
アドリエル代表が、司会ぶって笑顔をみせた。
「ロメリア代表、我々は真に平和を愛するものたち、そうでしょう」
リグビーが返事をしないでいると、やれやれといった調子で続けた。
「つまるところ、天変地異と、闇の者共の対策はとらねばなりません」
「それはわかっている。我がロメリアは、被害が少なかった分、あなた方三国に対して十分な支援を行ってきた」
「そもそもロメリアがなぜ被害が少ないのだ。我ら三国に比べて明らかに人死にが少なすぎる!」
「……竜巻は飛龍のいない土地に起こるもの、地震は地龍なき土地に起こるもの」
「貴様らが龍共を独占しているからではないか!」
「うっせえコノちょんまげでどうにかしてみルォ!」
リグビーは、右腹にプリンの一撃を食らった。
プリンはにこやかに言った。
「失礼。リグビー全権大使は、持病の咳がでましたので、本日の会議はこれまでとさせて頂きたい。明日の会議では、【そのような事】へのお返事もできましょう」
三国代表は、プリンの圧におされて、一も二もなく了承した。
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