「狡猾なる」ロメリウスの末裔

小説マン

第1話 【狡猾】なるロメリウスの顛末

【いと黒き者】ブフメリウスに挑みしは、古き力ある十二士。

ブフメリウス、12の翼の10をもがれ、時の果てへと逃げ去れり。

ブフメリウスとの戦で、十二士が六士は、聖なるバンタイルへ召されり。

後に残りしは、

【尊厳王】アドリエル、【隻眼王】オムライファ、【怪力無双】たるドワーフの王、エンキドロス、【全てを射抜く】エルフ王、ラーキ、【深遠なる賢王】ライオネス、そして、【狡猾】なるロメリウス。

【尊厳王】アドリエル、名に恥じぬ物言いをして曰く…、

「ブフメリウスを討つ。みなはここに残り、民草を導きたまえ」


この後、おとぎ話だと、こういう流れになる。


『高潔なる4人の古き王、大いなる勇気とともに、アドリエルに応じたり。ただ一人、ロメリウスのみは、臆病と卑怯と、兄ブフメリウスへの私情より応じず。アドリエル、臆病にして狡猾なるロメリウスを許したり。かくて高潔なる5人と狡猾なる1人は物別れに終わり、5人は時の果てへと旅立てり。ロメリウス、5人を見送りし後、門を封印せり。世の人々、5人の勇気を讃え、1人の裏切りに怒れり。ロメリウス、故地に戻り、200年と10日の後に、恥ずべき生を終えたり』


ロメリアスが子孫に残した話では、実際は、こういう感じだったらしい。


【尊厳王】アドリエル、名に恥じぬ物言いをして曰く…、

「ブフメリウスを討つ! みなはここに残り、民草を導きたまえ」

 アドリエルの言に、【怪力無双】エンキドロスは剛胆に笑いて曰く。

「いと高き人、天空の血のアドリエルよ! エンキドロスは常にあなたの刃なり」

「エンキドロスよくぞ申した。ならばこのオムライファ、アドリエルの盾となろう」

「その言やよし!エルフの首領、ラーキ、時の果てをも狩り場にせん」

「時の果てを知る好機、このライオネスが見逃すであろうか」

 アドリエルは涙を流した。

「おお、栄えある者達、なんたる物言いかな。いとうれし。いとうれし」

 アドリエル、ブフメリウスが逃れた時の果ての門を示し、

「では行こうぞ光の人たち、【いと黒き者】に終りを、時の果てに彼奴を討たん!」

おお、おお。古き者達が呼応する中、ロメリウスが言った。

「至高なるアドリエル殿、我に策あり。この門を塞ぎ、彼奴を時の果てに封じようぞ」

 ……。

古き者共、困惑してぽかんとせり。

やがてアドリエル、口を開きて曰く。

「ロメリウス、ロメリウス。そなた、兄たるブフメリウスを討つのに忍びないか」

「これはしたり。人の、エルフの、ドワーフの、三千世界の敵はブフメリウスなり。かの者、すでに力なく、この門を我らで封印すべし。ブフメリウスは門を開けず、滅びたものと同じ。我ら一人も失わず人の世は救われり」

エンキドロス、怒りて曰く。

「心弱きかなロメリウス。我らがブフメリウスに討たれるものか」

「エンキドロス、戦士の中の戦士よ。そなたの力を疑うものか。時の果ては未開の地なり。神代の時代よりいかなる力ある者も往きて帰れる者なし。ライオネス殿、さようであろう」

「いかにも。いかにも。だが黒き者の傷が癒えれば再びこの世に災いをもたらさん」

「かの者の源は汚れし心、恐れ、憎悪なり。人なき時の果て、かの者の力は復する事かなわず。皆の衆、我が言に理ありやなしや」

……。

「し、しかし、流れというものあり」

「しかり。この流れをとめること叶わず」

「さ、さよう。この流れでは時の果てにいくが最上」

「流れ? 流れとはいかなるものか」

「かの者を討ち果たさずに帰るは、不浄にてもの流す事なく戻りしに近し」

「あるいは、拭き取らずに下衣をまとうに近し」

「分からぬ。みな生きて帰るが最上なり」

「いやいや…」

……。

かくて高潔なる5人と狡猾なるロメリアスは、物別れに終わり、5人は時の果てへと旅立ったそうな。

ロメリアスは、龍の王ファランクスに、事の顛末をしたためた便りを届けるよう頼んだ。

龍たちは、『黒きもの』と呼ばれる前のブフメリウスと親しく交わっていた。だから、ブフメリウスと古き王の戦には参加しなかった。

ファランクスは世の人々に真実を伝えたが、世の人々はおとぎ話のようにロメリアスを憎んだ。龍達は人の性にあきれ、ロメリアのいと高き山々に姿を消した。

門の前で、ロメリアスは待った。

時の果ての門は、最果ての地「極地」フブリビアにあり。

午前が豪雪、午後は灼熱の火山が噴き出す、神に見放された荒野で、ロメリアスはまんじりともせず、待った。


50年間、仁王立ちした後、ロメリアスは門を封印し、自分の領地へと戻った。

50年の間に、旅立った古き王の名を冠した国ができていた。『アドリエル』、『オムライファ』、『ライオネス』の三国である。

50年の間に、ブフメリウスとの戦に参加した者は、エルフとドワーフを除いて誰もいなくなった。

ロメリアスの領地は、卑怯者ロメリアスの国『ロメリア』、裏切りの国ロメリアと蔑まれた。ロメリアスは、古い血を引く王の最後の一人だったから、長生きだった。

200年間、ロメリアスは、『ロメリア』を治めた。

200年で、ロメリアは最も豊かな国になった。


世に天災や飢饉、疫病が起こると、ロメリアは他国の民に援助を惜しまなかった。が、他国は援助の見返りに侮蔑と嘲笑を贈るのが常だった。

この世のあらゆる悪い事は、ロメリアのせいとされた。


それでも狡猾なるロメリアスは、他国に赴き、火山の噴火を抑え、洪水を押し戻し、悪鬼・悪龍を成敗するのをいとわなかった。

いかに古き血の王とはいえ、力は無尽蔵でない。

力を振るう度、ロメリアスは衰えた。

しかし、世の人々は、狡猾なる自作自演であると、ロメリアスをあざ笑った。

ロメリアスは世の人々の悪性を不思議に思った。


「【いと黒き者】ブフメリウスがこの世から消えた後、世の民の心はむしろ黄昏に傾いていくのはなぜか」


200年のうち、エルフは深森と海の彼方へ姿を消し、ドワーフは酒に溺れ技術を失い、人は増えたが、個の力が薄まり寿命は縮んだ。

その原因を、ロメリアの民以外の者に尋ねれば、即座にこう答えるだろう。

『ロメリアの悪巧みのせいだ』と。

人の変性に不安を感じたロメリアス王は、息を引き取る前、後継者アンドリクスの手を握り、告げた。

「人の心を見据えよ。人に、暗がりをもたらすものを滅せよ。人の暗がりを照らすものを見つけよ」

そして、ロメリアスの子孫たち、代々のロメリア王にとって、『人の心の調査』が、影の使命となった。


この使命により、ロメリアの王は、暗がりに落ちるもの、暗がりを恐れる者はいなかったが、恐ろしく変人ばかりになった。


アンドリクスは、何を勘違いしたのか、恋に破れた者を励ます行事「失恋祭」をはじめた。

一人の参加者もなかった。


アンドリクスの子、バラエルは、他国民から受ける侮辱的な表現を国別にまとめて、ロメリアの国民にどの表現が最も腹立たしいかを国民投票させた。

「ロメリア人とノミはお互い心臓移植が可能」が第一位となった。


バラエルの子、プレグレスは、幼い頃に落馬した時に大爆笑をとったことがきっかけで、事あるごとに落馬してみせ、「落馬王」と呼ばれた。

馬から落ちてもいつも無傷だったが、76歳の誕生日に、

「私は落馬王ではない、ラクダ王だ」

といってラクダに乗って登場した直後に落馬し、首の骨を折って死去した。

最初フリだと思った民衆から、一世一代の大笑いが起きたので本望であったろう。


プレグレスの子、アムリカスは、野球祭を主催して、他の三国に参加を呼びかけ、自らロメリア国代表チームの監督に就任した。

他国は呼びかけに応じなかった為、ロメリアは不戦勝で世界野球選手権の優勝国となった。アムリカスは自国メディアに、優勝の感想を聞かれてこう答えた。

「私は楽に勝った。真の「楽だ王」は私だ」


ロメリアスの遺言を曲解して、ロメリア王の血筋は徐々に、着実にまちがった方向に向かっていた。

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