モフロボ
新吉
第1話 モフロボといっしょ
毛の長い動物がいた
毛が長いのは体を守るためだ
人間のように服を着ないからだ
周りが暑くなれば毛は抜け落ちていく
周りが寒くなれば冬用の毛が生え代わる
暑い地域では短毛の種類が生まれる
寒い地域では長毛の種類が生まれる
肉球を守るほど長いこともある
毛の長いその動物はいた
人間の近くにいた
人間のように服を着ていた
雨が降っていればカッパを
夢の国に出かければ着ぐるみを
寒ければ一緒に布団に入り
暑ければ一緒に氷を食べる
そうしてその動物と人間は一緒にいた
撫でた、抱きしめた、揉んだ、さすった、触った、抜いた、洗った、切った、乾かした、いじった、染めた、わしゃわしゃした、キスをした、癒された、怒った、泣いた、笑った、もふもふした
そしてそれは残った
人間と仲良く映るその写真や映像は
本当にたくさん、たくさんあった
死んでしまった
もういない
それは寿命だったり病気だったり事故だったり
もう鳴いてくれない
もう笑ってくれない
もう怒ってくれない
もう動いてくれない
もうもふもふさせてくれない
写真に映る彼らの姿を眺めている
動画で動く彼らの姿を眺めている
人形を撫でてみる
こんなにそっくりにできていても
こんなに毛が生えているのに
全然違う
その思いは彼を動かしていく
写真が綺麗に撮れました
動画が上手に撮れました
あとは
映写機に映された半透明の彼ら
恐る恐る彼はそれを撫でました
この感触が残せたら
その思いは果たされました
瞬く間に大ヒットしたその発明品は
動物好きにも動物嫌いにも受け入れられ
アレルギーの方にも病気の方にも
小さい子にもお年寄りにも
気兼ねなく動物と触れ合えるものでした
もふもふできます
彼はそうして生涯を終えました
その後もふもふ映写機は
家庭に病院、ペットショップ、動物園、職場等
様々なところに設置されました
そんな時代のある日のことです。元々動物を飼っていたお家に映写機がやってきました。だいぶ小型化されたそれは、リビングの角に設置されました。だいぶ小型になり速度も増えて、少しだけ宙に浮くようになったお掃除ロボットのその上に、元々飼っていた猫が今乗りました。これくらいの重さならへっちゃらです。健気にお掃除をするロボットはスイスイと家具の間を動いて映写機に近づいていきます。飼い主さんはイヌがはしゃいでいる映像を眺めている途中に、少しだけ宙に浮いている椅子のまま飲み物を取りに行きました。猫はイヌに近づきます。映写機に映るイヌは映像なので全く気にしません。猫パンチが素早く繰り出されじゃれ出しますがイヌは変わりません。ヒートアップした末に映写機が壊れてしまいました。飼い主さんは買ったばかりの家電の末路を悲しみながらも粗大ゴミに捨てました。そこに烏がやってきました。烏はイヌをつつきました。死んでいるわけではないイヌの映像は動きます、故障によってぎこちないですが少し吠えました。烏がいなくなって野良猫が通り過ぎて、飼い主とリードのついた犬が走りすぎて行って、その日の晩は雨でした。満月が隠れて光が届かない厚い雲の夜でした。
イヌは何万回と知らずくりかえしていた映像が終わると静かに座り込みました。土砂降りの雨ですがおかまいなしに走り出しました。雨を弾いていく車が空を走って行きます。ざあざあ振りの雨に混じって時折大きな雨粒が頭に落ちてきます。イヌはただひたすらに走りました。
今はもういない彼の思いは本当の意味で果たされようとしていました。いろんな感情が加わることで彼は動き出すようになりました。
撫でられ愛されたもの
捨てられ雨に打たれたもの
くしでとかされたもの
キスをされたもの
いじめられたもの
動物でも機械でもない彼らは
いったいなんと呼ぶのでしょう
毛が長い彼らがいた
毛が長いのは体を守るためだ
人間のように服を着たりもする
周りが暑くなっても寒くなっても
機械だから関係ない
撮った映像や写真によって
短毛だったり長毛だったりする
肉球の感触は残念ながらわからない
世界の終わりに生き残っていたのはロボットとそれを管理していた人間と、彼らだけだった。それはまた別のお話。
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