第四話

「到着よ。もうすっかり日が暮れてしまったわね。」

 ガレージ内部は蛍光灯に照らされて明るいが、出入り口から見える外の景色は夕闇に沈みかけている。隣の絢は停車してすぐにドアを開けて外へ出た。自動制御でガレージのシャッターは半分ほどがもう下りている。

 運転席の美女が振り返って近衛を見た。

「月並みだけど、これからすぐ夕食にします? それともお風呂が先? それとも、わたしかお姉さまを摘んでみる?」

 冗談めいた口ぶりで彼女は微笑み、それでいて舌なめずりを見せた。

「御主人様の手配だから期待はしてなかったんだけど、見当が外れたわ。こんなイイ男が来るなんて予想外よ。これからひと月、よろしくしてね、わたしは玲よ。」

 こうして面つき合わせてみればよく解かる、彼女は絢とはまた違ったタイプで、かなりサバサバとした気性の持ち主と見えた。絢がいかにも繕った好色さを見せたのに対し、こちらは本音で男好きなのだろう。するりと伸ばした腕がためらいもなく近衛の頬を撫でた。

「玲、」

 外から、絢の鋭い声が掛かる。

「はいはい、お姉さま。……じゃ、また後でね、近衛さん。」

 するり、するりと頬を撫で回した後に、女の柔らかな手は離れていった。


 絢がドアを開けるまで、近衛の方では動くに動けなかった。運転席のシートから乗り出してきてまでして接触を図った玲も、尋常とは思えなかったからだ。

 頭陀袋で顔を隠す偏狭な老人に、人が少ないとは言え白昼堂々と痴女めいた行為に及んだ絢。あげく、運転席の女、玲までが普通の感覚では理解し難かった。この屋敷の住民は、まさか、全員がどこかおかしいのかと、彼はますます怖気た。

「どうぞ、近衛さん。留守番に残した最後の一人に引き合わせるわ。ここに住んでいるのはわたしたち三人とご主人様だけよ、妙な遠慮は無用よ。」

 ほとんど引きずり上げるような強引さで、絢は近衛の腕を引いて車の外へ出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【公募用】タイトルはまだない 柿木まめ太 @greatmanta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ