旧医務隊舎1

 ある駐屯地。


 同じような木造の建物が、三棟並んでいる。


 いずれも築七十年以上の木造舎である。


 これらの建物は、旧陸軍の駐屯地として使われていたものだという。ただ、もうほとんど使われておらず旧舎と呼ばれ、今は、別の場所に建てられた鉄筋コンクリートの新しい建物が隊舎として使われている。


 これは、三十年ほど前のこと。まだ、この旧舎が使われていた時の話である。


 旧舎の一棟は、長らく医務隊舎として使われていたが、やっと新しい建物へと移転することになった。その最終日。後片付けをしながらの移動作業。ところが、この後片付けがなかなか終わらない。とうとう深夜の居残り作業となった。


 Hさんが一人で、その作業をしていた。


 と、上の階から、足音が聞こえてきた。


(あれ、誰か上がったのかな?)


 しかし、階段は一カ所しかなく、この部屋の前を通らなければならない。だとしたら、気づくはずだ。しかもこの建物には、自分以外は誰もいないはずだ。


(見に行かな)


 Hさんは、懐中電灯を片手に階段を上がった。 


 当然ながら、上の階は真っ暗で、人のいる気配もない。 


 やはり、どの部屋も真っ暗で、鍵がかかっている。


(でも、確かに足音してたよな)  


 首をひねりながら、階段を下りようとした。 


 すると、突然、背後に人の気配が来た。


 振り返った。 


 身長が百九十センチ近くある、白人の大男がいた。


 思わず身構えると、男はふっと、目の前の部屋のドアをすり抜け、中へと消えた。


 慌ててその部屋の中も確認したが、やはり誰もいなかった。


 後にわかったことがある。


 その部屋は、先の大戦中、捕虜だった米兵の遺体安置所だったという。




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