怪談狩り/中山市朗(角川ホラー文庫)

自衛隊の怪談

営門

 Aさんは滋賀県の、とある特科連隊に所属していて、その駐屯地の営門の警備をしていたことがある。


 門は鉄製で、高さ二メートル。当然のことながら、車での突撃やテロに備えてその造りは頑丈で、人の力では絶対に開かないようになっている。


 ある夏のお盆のことだという。


 夜九時も三十分を超えた頃、外に遊びに出かけていた自衛官たちが帰ってくるのをチェックしていた。車が入ってくると確認し、門を開け、通すと門を閉じ、また入ってきた車を確認し、門を開けるという作業の繰り返しである。


 そんな車の列が、少しの間、途絶えた。


「もうそろそろ、門限の十時だ」


 もう一人の警備員とちょっと雑談をした。


 と、突然、営門の鉄扉が、音もなく開いた。


「えっ……」


 Aさんたちは、しばし固まった。


 絶対に操作なしには動かない門。しかも、開くときは、物凄い音がするはずである。


 それが今、目の前で静かに動いている。そして、ピタッと止まった。


 通常、車二台分開くはずの門が、ちょうど車一台が通れるスペースだけ開いている。 


「なんで開いたん?」 


「てか、開くわけないやん。あんなクソ重い門」


 と、後ろから警備隊長がやってきた。


「そろそろ門限やな」


「あの、隊長。今、門が勝手に開いたんですけど」


 すると隊長は、半開きの門を見て、


「あーっ、そうかそうか。今日は八月十五日やからなあ」と言って、一人でうなずいている。


「あの、なにかあったんですか?」


「あっ、あのな」


 隊長がこんな話をした。


「以前な、うちの隊で、脱柵した隊員がいてな。車で出かけて、帰って来ないなと思っていたら、岡山県のある駅のトイレで首吊った状態で発見されたんや」


「首吊り……?」  


「そや。でもな、脱柵はしたものの、故郷には帰りにくかったんやろな。かと言って、隊にも戻れん。結局、どうにもならんことになって首くくったらしい。それからや。毎年お盆になると、ヤツ、車で帰ってきよるんや。毎年やで」


 そんな会話をしている三人の目の前で、門は音もなく閉まったのである。





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