ラノベテーマパークのラッキーだよ★ ハハッ★

ちびまるフォイ

ラノベの世界は最高だぜっ!

「ここがラノベテーマパークかぁ」


最近、家の近くにできたテーマパークにやってきた。


遊園地のような派手なジェットコースターや、

ひとめを引く観覧車などはなくあるのは撮影セットのような場所。


「ハハッ★ ようこそ、夢の国へ!

 ここでは君が夢見たあんなことやこんなことができるよ!」


マスコットキャラクターがバク転しながらやってきた。


「あの、よくわからないんで案内してもらえますか?」


「ハハッ★ もちろん!」


テーマパークのマスコット「ラッキーくん」に案内してもらうことに。

最初にやってきたのは教室ぽいセットだった。


「入ってみて★」


「はぁ……」


学校の教室を思わせる扉をスライドさせると、教室にはすでに生徒がまっていた。


「あーー紹介しよう。今日から転校してくる○○くんだ。

 席はあそこが空いているから座ってくれ」


先生役の人が指さした先の机に向かい、着席すると隣は黒髪ロングの美少女。


「……ふんっ」


何があったのかは知らないが、ザ・ツンデレとはなまるを贈りたくなるような態度。

これから始まるラブロマンスを想像させてくれる。


「ハハッ★ どうかな? 楽しめた?」


「これは……いったいどんなアトラクションなんだ?」


「これは転校生体験だよ★ ライトノベルといえば転校生。

 転校生といえばライトノベルだからね★」


「あぁ、たしかに……」


なんだかこのあとよくわからない部活とかを創設したりとかして、

毎日放課後に一緒に集まる、という展開は簡単に思いついた。


「さぁ、次のアトラクションに行こう★ まだまだ楽しいよ!」


ラッキーが連れてきたのはまた感じの違う場所で、

だだっ広い草原にドラゴンやゴブリンがいる中世ファンタジーの場所。


「なにか魔法を唱えてみて★」


「ビビデバb」


「それはやめろ。権利的に怒られる」


ラッキーの地声に魔法詠唱をもっと普通のに変更した。

それこそ、ラノベでよく見るような古めかしい詠唱呪文に。


「すごい!! 炎が出た!!」


テキトーに唱えたつもりだったが威力は想像以上で、

いかにも強そうなモンスターを一瞬で消し炭にかえてしまった。


「ここはチート体験場だよ★ 楽しいでしょ?」


「ああ、最高だよ! ラノベでよく見るチート体験がここでできるなんて!」


「それじゃとっておきのを紹介するよ★」


ラッキーはよりテーマパークの奥へと俺をいざなう。

次のアトラクションはピンク色のちょっとエッチな部屋。


「あら、かわいいボウヤね」

「お兄ちゃん! はやく起きて!」

「はわわっ。男の人が来ちゃいましたぁ!」


タイプもさまざまな女の子がひしめきあっている。


「ここは……」


「ハーレム体験だよ★ このテーマパークの一番人気さ★」


女の子はまるで変な催眠でもかかっているのかと思うほど俺に心酔してくれている。

男としてこれ以上嬉しいことはない。


「気に入ってくれたかな? ラノベ体験は?」


「もう最高だよ!! 文句なしだ!」


「それじゃあとは自分で遊んでいってね★ ハハッ★」


ラッキーくんと別れてからも、もっと深くラノベを体験するためにパークを歩き回った。

あまり人が来ないような裏路地に入るとカーテンに仕切られた区域を見つけた。


「ふふふ。もしかして18禁エリアだったりして……」


レンタルビデオショップの知識を持ち出して中に入ってみると、

中にはどんよりとした空気感で包まれていた。


真っ先に目についたのは、書店の一角のような体験場。


「なになに……出版体験場?」


詰まれた本の中には埋もれるようにして俺の出した本があった。

なんと全2巻。これじゃ打ち切りだ。


「ラノベって激戦だからな……こういう体験もあるのか……」


酸いも甘いも体験できる。

そうわかっていても、このアトラクションは目をそむけたくなった。


逃げ道を探すように歩き回ると、今度はパソコンが置いてあった。


「なんだろう? 何か見れるのかな?」


パソコンはネットに接続されていて俺の出した本(という設定)への

コメントや掲示板のサイトが開かれていた。


「な、なんだよこれ……!?」


どれも批判的なものばかり。


文才のなさを批判するものや、多用するセリフ表現を引用したり

作中の矛盾をアラ探しのように指摘してはバカにされている。



>批判体験場



「これがラノベの世界なのか……! 俺が夢見た世界なのか……!」


だんだん怖くなり必死に元の道を探すが見つからない。

行きついたのは、ごく普通の1LDKの一人暮らしの部屋。


「ここは……?」


真っ白な紙だけが置いてある。

セットされた椅子に座ると、一気に追い詰められた気分になった。


>アイデア枯渇 体験場


「ひぃっ……! こ、こんなのいやだ!!」


迫る締め切りと、思いつかない焦り。

こんな板挟みはどんな拷問よりも恐ろしい。


「もういやだ! ラノベなんていやだぁぁ!!」


道はわからなかったがパークの柵は見えたので強引によじのぼって外へ出た。



「大丈夫ですか?」


顔を上げると、別のパークの制服を着た人が立っていた。


「恐ろしかったでしょう。

 ラノベテーマパークは楽しそうに見えて、中身は地獄なんです」


「あなたは?」


「私はうちは隣のテーマパークスタッフです。

 どうですか? よかったら遊びにきませんか?」


スタッフに連れられてパークに入ってみると、

ちょうどさっき体験したハーレムアトラクションといった楽しい施設が充実していた。


「どうです? 楽しいでしょう?

 うちはラノベテーマパークと違って辛いものは一切ありません!

 存分にパークを楽しんでください!」


「こっちの方がいいじゃないですか! 最高だ!」


「うちのイチオシは"異世界体験"ですよ。さぁどうぞ」


スタッフに勧められたアトラクションはどれもハズレなし。

ラノベパークの辛い部分すべてが消えていた。


「それにうちはラノベパークとはちがい、

 より刺激的なアトラクションや、過激なアトラクションもあるんですよ」


「最高すぎる!!」


まさに上位互換。

パークのアトラクションを心ゆくまで楽しんだ。


「いやぁ、楽しかった。でもそろそろ暗くなったので帰らないと」





「は? ここからは出られませんよ?」


スタッフは営業スマイルのまま冷たく宣告した。

その一言で頭が冷え、このパークに出口がないことを気付いた。


けれどもう何もかも遅すぎた。



「ここはWEB小説テーマパーク。

 楽しい事だけをずっと体験してあなたが創造力を失い、

 作家として創造力や意欲が消えるまで出られませんよ?」



楽しい事だけ体験した俺には、

もう葛藤や奥深いものを作る力が失われていた。

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