窓からごく自然と山が臨める環境で過ごすとわかると思うのですが、どのような話の形で「山への畏れ」を言葉にし、形に表し、理性で抑え込もうとしても、私たちの心に根付いた「山への畏れ」もしくは「山への信仰心」とでもいうのでしょうか、それらが消えてなくなることがないのだと思います。
この作品もまた、先達の怪談・民話などに見て取れるような「山への畏れ」や「山への信仰心」が、作者自身の言葉で丁寧に描かれています。
私個人の所感ですが、特に「マヨヒガ」がおすすめです。
登場人物は10人ほどですかね。ひとつの短編の中に、彼らの背景が丁寧に書きこまれ、個人個人にスポットを当てながらクライマックスに収束していくまでの筆致は鮮やか、お見事と称賛すべきものでした。
各話の恐怖の質は鋭いものではなく、立ち込めた霧のような質の恐怖ですのでそこは注意してください。