春の夜や夢ばかりなる稲光

【読み】

 はるのよやゆめばかりなるいなびかり


【季語】

 春の夜(春)


【大意】

 ある春の夜に、夢幻のごとく稲光が走るのであった。


【附記】

 百人一首にも取られている周防内侍すおうのないしの「春の夜の夢ばかりなる手枕にかひなく立たむ名こそ惜しけれ」の本歌取り(俳諧化)である。かなり機械的につくっており、おもしろみに欠けるかもしれない。


 推敲前、「春の夜の夢ばかりなり稲光」。


 なお、「稲光」は本来秋の季語である。


【例歌】

 ながむれば衣手かすむひさかたの月のみやこの春のよの空 源実朝


【例句】

 春の夜やこもゆかし堂の隅 芭蕉

 春の夜や昼雉子うちし気の弱り 太祇たいぎ

 春の夜や月に移れるさざれ波 闌更らんこう

 春の夜も傾く月や連歌町 召波しょうは

 春の夜や雨をふくめる須磨の月 青蘿せいら

 春の夜や酢を乞に来る隣あり 成美せいび

 春の夜や鼠の落す棚のぬさ 東皐とうこう

 春の夜の雲に濡らすや洗ひ髪 夏目漱石

 吾妹子わぎもこを夢みる春の夜となりぬ 同

 春の夜やくらがり走る小提灯 正岡子規

 春の夜や奈良の町家の懸行燈かけあんど 同

 春の夜や二階の窓の影法師 同

 春の夜の夢の涙や枕紙 羅蘇山人

 燈台の油ぬるむや夜半よはの春 芥川龍之介

 春の夜や小暗き風呂に沈み居る 同

 春の夜や蘇小にとらす耳の垢 同

 

 稲妻や二荒山ふたあれやまの根なし雲 桃隣とうりん

 稲妻を手にとる闇の紙燭しそくかな 芭蕉

 あの雲は稲妻を待つたより哉 同

 雪をまつ上戸じやうごかほやいなびかり 同

 いなづまや闇のかたいく五位の声 同

 稲妻やどの傾城けいせいと仮枕 去来きょらい

 稲妻のかきまぜて行く闇夜かな 同

 曙や稲妻戻る雲の端 土芳とほう

 いなづまやきのふは東今日は西 其角きかく

 稲妻のわれて落つるや山の上 丈草じょうそう

 蛙なく田のいなづまやとびの影 野坡やば

 稲妻や座鋪ざしきの跡のしのぶ草 同

 稲妻は鶺鴒せきれいの尾のちぎりかな 史邦ふみくに

 稲妻やこそげて通る雲の底 嵐青らんせい

 稲妻や落て崩るる浪がしら 素覧そらん

 稲妻の落込おちこむ稲や真くらがり 十丈じゅうじょう

 いなづまや舟幽霊ふないうれいよばふ声 太祇

 稲妻の顔ひく窓の美人哉 大魯たいろ

 いな妻や秋つしまねのかかり舟 蕪村

 いなずまや堅田泊りの宵の空 同

 明やすき夜や稲妻の鞘走り 同

 稲妻や一万人の握り飯 蓼太りょうた

 いなづまや雨月の夫婦めをとまだいねず 召波

 稲妻のおさまるかたや月の雲 几董きとう

 稲妻に並ぶやどれも五十顔 一茶

 稲妻や松の香こぼす青畳 梅室ばいしつ

 稲妻や畑向うの話し声 同

 稲光音せで稲の葉分はわけかな 六花

 稲妻や網にこたへしうをの影 井月せいげつ

 稲妻の砕けて青し海の上 夏目漱石

 稻妻や誰が稽古のくさり鎌 正岡子規

 稲妻の雲から雲へ走りけり 寺田寅彦

 稲妻や荒野の果の一軒屋 同

 稲妻や軒の芭蕉の風もなし 同

 稲妻や犬しきりなく縁の下 尾崎放哉

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る