俤やちらほらとたつ雪のなか

 おもかげやちらほらとたつゆきのなか


【季語】

 雪(冬)


【大意】

 雪が降るにしたがって、知った人(または物)のおもかげがちらほらと浮かび立つことであるよ。


【補説】

「雪が立つ」とはふつう言わないだろうが、「ちらほら」は雪の降るようすも匂わせている。


 推敲前、「初雪やおもかげに立つ顔いくつ」。


【参考歌】

 水仙のほのかに匂ふ雪明り魚のたぐひが沈みて眠る 竹久夢二


【参考句】

 小便の数もつもるや夜の雪 貞室ていしつ

 鴛鴦ゑんあうのかはらに降るやふすま雪 季吟きぎん

 ながながと川一筋や雪の原 凡兆ぼんちょう

 下京しもぎやうや雪つむ上の夜の雨 同

 蝋燭らうそくのうすき匂ひや窓の雪 惟然いぜん

 いつものゐる石もなしけさの雪 言水ごんすい

 応々といへどたたくや雪のかど 去来きょらい

 白妙の橋にこぶあり雪のさぎ 来山らいざん

 盗人の銭おく雪のやどりかな 同

 長々と横たふ雪のつつみかな 才麿さいまろ

 我雪とおもへば軽し笠のうへ 其角きかく

 狼の声そろふなり雪の暮 丈草じょうそう

 鶏の音の隣も遠し夜の雪 支考しこう

 馬の尾に雪の花散る山路かな 同

 雪の夜やひとり釣瓶つるべの落つる音 千代女ちよじょ

 愚に耐よと窓をくらうす雪の竹 蕪村

 宿かさぬ火影ほかげや雪の家つづき 同

 巻きおろす外山とやまの雪や浪がしら 麦水ばくすい

 都辺や坂に足駄あしだの雪月夜 召波しょうは

 立山たてやまや雪に分入わけいるかりの影 樗良ちょら

 早瀬川見るほど雪の流れけり 大魯たいろ

 あざらけうを拾ひけりゆきの中 几董きとう

 恋猫の声ききそめつ雪月夜 同

 物書きて鴨にかへけり夜の雪 菰堂こどう

 魚くふて口なまぐさし昼の雪 成美せいび

 大雪や印の竿を鳴く烏 一茶

 水青し土橋どばしの上に積る雪 夏目漱石

 湯帰りやあらおもしろの雪景色 尾崎紅葉

 質おいて番傘買ふや夜の雪 泉鏡花


 俤やおばひとり泣く月の友 芭蕉

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