柿なるや薬師の顔の青むころ

 かきなるや薬師くすしかほあをむころ


【季語】

 柿(秋)


【語釈】

 薬師――医者。医師。


【大意】

 医者の顔があおくなるころ、柿が(まっかに)なるのであった。


【補説】

「柿が赤くなると医者の顔があおくなる」ということわざを反転している。句のできはどうあれ、ユーモアとはそのようなものと心得る。ことわざは「柿」を「りんご」とする場合もあるらしい。


 余談だが、有名な正岡子規(1867-1902)の「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」の句はもと下五しもごを「東大寺」としていた由。子規は大の柿好きであったと聞く。


【参考句】

 ほぞおちの柿のおときく深山みやまかな 素堂そどう

 がらしにこずゑの柿の名残なごりかな 嵐雪らんせつ

 初雪や柿に粉のふく伊吹山 許六

 名月や雷のこる柿の末 酒堂しゃどう

 御所柿のしぶしぶながら別れけり 露川ろせん

 木つたふて穴熊出づる熟柿かな 丈草じょうそう

 芽出しより二葉に茂る柿のさね 同

 はらわたに秋のしみたる熟柿哉 支考しこう

 田舎から柿くれにけり十三夜 太祇たいぎ

 三日月もさはらば落ちん熟柿かな 素丸そまる

 御所柿にたのまれがほのかがし哉 蕪村

 ちぎりきなかたみに渋き柿二つ 大江丸おおえまる

 柿の渋ぬける夜冴よさえ遠碪とほきぬた 暁台きょうたい

 渋柿やはしおしぬぐふ山がらす 白雄しらお

 尾長なく渋柿原の雨気あまけかな 同

 渋柿をむは烏の継子ままこかな 一茶

 夜をこめて柿のそらや本門寺 内藤鳴雪

 渋柿や長者と見えて岡の家 夏目漱石

 柿赤しはた織る窓の夕明り 幸田露伴

 渋柿やあら壁つづく奈良の町 正岡子規

 干柿に蜻蛉とんぼ飛行く西日かな 同

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