春めくや馥郁として帋の屑

 はるめくや馥郁ふくいくとしてかみくづ


〔季語〕

 春めく(春)


〔語釈〕

「馥郁」は良い香りのただようさま。

「帋」は「紙」の異体字。


〔大意〕

 春めいてきて、紙屑が良い香りをただよわせるのであった。


〔解説〕

 自治体によってゴミの分別の方法の異なることと思うが、だいたいどこでも紙は紙で出すことになっていることと思う。ご存知のとおり紙は包装用に重宝されており、商品などから良い香りのうつったものも当然ある道理である。その紙くずから良い匂いがただよってくるのである。それを春めくことと結びつけるのは春が百花繚乱の季節だからだろう。


 紙というと、江戸時代には「紙子かみこ」と呼ばれる、紙に柿渋を塗った防寒具が重宝されていたようで、芭蕉はじめ俳諧師(俳人)にもよく詠まれていたらしい(「紙子」は冬の季語)。せっかくなので参考句にいくつか挙げることにする。


 表題の句に関して、ハ行の頭韻やク音をたたみかけるようにくりかえした点が工夫といえるかもしれない。


〔参考句〕

 かげろふの我肩に立つ紙子かな 芭蕉

 春めくや人さまざまの伊勢参り 荷兮かけい

 まじはりは紙子の切れを譲りけり 丈草じょうそう

 あるほどの伊達仕尽して帋子かな 園女そのめ

 寂しさをきぬたにきかで紙衣かな 也有やゆう

 かつらぎの紙子脱がばや明の春 蕪村

 老を山へ捨し世も有に紙子哉 同

 めし粒で紙子の破れふたぎけり 同

 紙衣着てふくれありくや後影 召波しょうは

 二君には仕へ申さぬ紙子かな 内藤鳴雪ないとうめいせつ

 風流の昔恋しき紙衣かな 夏目漱石

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