青狸辛くも化けて社会人

 青狸あをだぬきからくもけて社会人しやくわいじん


〔季語〕

 狸(冬)


〔語釈〕

「青狸」は未熟なタヌキのこと。

「辛くも」はあやうくも。かろうじて。

「社会人」は「実社会で働いている人。学生・生徒などに対していう」(デジタル大辞泉)。


〔大意〕

 未熟なタヌキがからくも化けて社会人をしているのであった。


〔解説〕

 社会人の生活になれない人を、化けるのが得意ではない未熟なタヌキにたとえた。あるいは作者の心情の吐露か。


「狸」は、明治時代の時点でいまだ季語とされていなかったように見受ける。「狢」と書いてタヌキをいうことがあるようだが(読みはムジナで良いのだろうか)、ムジナはアナグマをいうこともあり、またタヌキでもアナグマでも、さらにはハクビシンでも(たぶんアライグマでも)なくてムジナはムジナだという話も耳にする。


 参考句に「狸」「狢」を詠んだものを。句のふりがなは旧仮名、詠み手のそれは新仮名。読みは慎重に検討したが間違いがないとも言いきれない。いずれの句においても「狸」「狢」は季語としての働きをしていないようである。


〔参考句〕

 雪路かなたきぎに狸折り添て 鬼貫おにつら

 鉢たゝききくや狸の腹つゞみ 許六(きょりく又はきょろく)

 狸にも蝶にもならぬひるねかな 諷竹ふうちく

 秋のくれ仏に化る狸かな 蕪村

 戸をたゝく狸と秋をママしみけり 同

 冬篭ふゆごもりくりやに狸釣れたり 嘯山しょうざん

 行春ゆくはるや狸もすなる夜の宴 几董きとう

 狸む一本えのきかすみけり 正岡子規

 朧夜おぼろよや狸群れたる古社 同

 かはうそを狸のおくる夜寒よさむかな 同

 小幟このぼりや狸を祭る枯榎かれえのき 同

 戸を叩く音は狸か薬喰くすりぐひ 同

 冬ざれやむじなをつるす軒の下 夏目漱石

 たけのこむじなの穴のむぐらより 泉鏡花いずみきょうか

 むらもみぢ灯して行くむじなの湯 同

 月今宵茶釜に化けし狸かな 寺田寅彦

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