いざゝらば鬼の居ぬ間に鰒喰はん

 いざゝらばおにふぐはん


〔季語〕

 鰒(冬)


〔語釈〕

「いざゝらば」は、さあ、それでは。よし、それなら。


〔大意〕

 さあそれでは鬼のいないあいだに河豚を食べるとしよう。


〔解説〕

 河豚の好きな亭主が、河豚を食べることを許さない妻の目を盗んで河豚料理に舌鼓を打つというような光景。あるいは、父が娘に禁じられているのか。妻と取ったほうが「鬼」という語が活きてくるようには思う(「鬼嫁」という語がある)。いずれにしても、男性が河豚を食べようとするのを女性が止めるという構図が私の脳内に去来する。生まれてこのかた河豚を口にした記憶のない作者の空想ではあるが、そんなことも往々にしてある(あった)のではないかと思った。


 もちろん、「鬼のいぬまに洗濯」という表現をもじっている。


〔参考句〕

 鰒喰うての後雪の降りにけり 鬼貫おにつら

 いざさらば雪見にころぶ所まで 芭蕉

 河豚喰し人の寐言の念仏かな 太祇たいぎ

 いざさらば蚊やりのがれん虎渓こけいまで 蕪村

 鰒喰へと乳母はそだてぬ恨かな 同

 鰒汁の宿赤々と燈しけり 同

 玉川のうた口ずさむ鰒の友 同

 河豚好む家や猫までふぐと汁 几董きとう

 鰒すするうしろは伊豆の岬哉 一茶

 河豚汁や死んだ夢見る夜もあり 夏目漱石

 物言はで腹ふくれたる河豚かな 同

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