誰をかも痴人にせん女郎花

 たれをかも痴人しれびとにせん女郎花をみなへし


「かも」は詠嘆を込めた疑問。……かなあ。

痴人しれびと」は愚か者。れ者。

「せん」は推量の表現。……するだろう。


 その可憐な姿で誰を痴れ者のように夢中にさせるのだろうかなあ。女郎花よ。


 これは


 誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに 藤原興風ふじわらのおきかぜ


という歌をもじったもの。興風のこの一首は小倉百人一首(藤原定家が撰んだという現在最も流布している百人一首で、「百人一首」といえば普通これをさすだろう)にも採られているため聞いたことがあって知っているという人も少なくないだろう。


 本歌の「せむ」は思うに意思の意で使っているが、表題の句の「せん」(表記は現在の自分ルールにのってって変更している)は推量の意で使っている。


「をみなへし」は一説に、女性(をみな)を圧倒する(へし)美しさというのが語源になっているという。真相がどうあっても「をみな」が「女」から来ているのは間違いないのではないか。「女郎」はもと女性一般の意で、江戸時代には転じて遊女の意味で使われるようになったらしい。「女郎花」の表記は平安時代なかばころから始まったとのことで、遊女の意味でその表記になったわけではなさそうだ。


 私は女郎花の実物をよく見たことがあるわけではないが、写真を見るかぎり素朴で可憐といった印象を持つ(我ながら感想下手だ)。誰かを痴れ者のようにするとは過ぎた物言いだったかもしれない。今でこそ世の中には多くの種類の花があるわけだが、その黄色い花の秋風に揺れるさまを見れば、秋の七草の一角を張ってじるところがないとの思いを私は持つだろうと思う。

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