第6話 【オリジナル魔法と提案 〜其の一〜】
俺は、あの魔法を
本当は他の名前があるのかもしれないが、少なくとも上級までの魔法にはない。
もしかして優級以上の魔法なのかと思ってアトミーに聞いてみたが知らないそうだ。
アトミーは魔法学園とかいうところを卒業していて、優秀なのだ。
その彼女が知らないなら無いんだろう。
つまりあの魔法は俺のオリジナル魔法ということになる。
創意工夫で魔法を作れることを知ってからの2週間の間、俺は毎日毎日あの丘に通っては枯渇手前まで魔法をイメージで試作している。
そのおかげで竜巻1つしかなかった俺のオリジナル魔法も3つに増えた。
その中でも俺のお気に入りの魔法はマリオネットだ。
マリオネットとは文字通り俺を操り人形のようにするわけだ。
糸状にした魔力を体の各部位につなぎ、体を動かす。
これは、「体を鍛えないで強くなる」というコンセプトの元作られた。
そしてコンセプト通り、マリオネットは3歳の俺でもそれなりに強くなれる。
いや、実はそれなりじゃない。
明らかな異常な速さで動けるのだ。
こいつの最高時速は120キロだ。
何故こんなに速くなってしまったのか。
事の始まりは俺が調子に乗ったことからだった。
最初俺はマリオネットを1日で作った。
遂に完成した新オリジナル魔法を試すべく、意気揚々と丘に行った俺は、魔力をいつもよりも多めに込めてマリオネットを使ってみた。
すると、体が時速30キロ程で動いた。
魔力を多めに込めたせいでいつもより格段にスピードアップしたのだ。
今まで体を精密に動かすことに専念してきたが、速さについては考えてこなかった。
ある程度なら速く動けたからだ。
3歳の俺でも50メートルを10秒程だった、今の俺には十分な速さだった。
その速さを遥かに凌駕するスピードが出たことに俺は嬉しくなり、ついつい調子に乗ってしまった。
しかし、その調子もすぐに終わった。
50キロの時点で体が引きちぎれそうになったのだ。
既に充分速かったんだが俺は満足しなかった。
何日かかけて様々なアイデアを試した結果、体を魔力で強化出来ることが分かった。
そこまで分かれば後はスピードを上げるだけだ。
そして、結果的に120キロという速さに達したのだ。
まぁ、本当はまだ速くなれるはずだが俺としては満足のいく速さが出て試す必要もなくなった。
しかし、この魔法にも欠点がある。
それは尋常じゃない消費魔力量だ。
今の俺の魔力だと、上級魔法を20回ほど使うと枯渇寸前になる。
しかし、マリオネットは10秒で大体上級魔法10回分に相当する。
つまり、俺は20秒しかこの魔法を使えない。
ということは、せいぜい移動できても66メートル。
それだけ移動したとしても、もう魔法は使えないのだから意味はない。
それに、それくらいの距離は歩けばいい話だ。
この異常な消費魔力量も、まぁ当たり前といえば当たり前なのだ。
常に魔力を糸状にし、体も強化したまま、120キロで移動できる分だけの魔力を使う。
そりゃ消費も激しくなって当たり前だ。
では何故、何の用途もない魔法を俺が気に入っているのか。
答えは簡単、単に楽しいからだ。
元の世界の車のように何かの中に入るわけでもないから風も直に感じられて気持ちがいいし、このスピード感がたまらない。
そうだな、いうならば即席ジェットコースターだ。
しかも加速に使う時間は0秒、いきなりマックスのスピードが味わえる。
他の魔法も面白いのは確かだが、こんなに楽しい訳じゃない。
そして今日も俺は新しい魔法への興奮を胸に暗く不気味な森の中を軽い足取りで進んでいた。
俺は、いつもの丘に着いたところで迷う。
今日はどっちの魔法を試すべきか…
楽しそうなのは
あー、迷うなぁ。
あらかじめ名前とイメージだけ考えてきた2つのうち、どちらを試すべきか迷ってしまう。
1日に専念できる魔法は魔力量との兼ね合いから1つが限界だ。
頭をボリボリとかきながら迷っていると、ふとマリオネットのことを思い出した。
そうだ、マリオネットで俺は死にかけたんだ。
もしかすると雷鎧は使ったら感電死してしまうかもしれないな。
よし、死ぬのは御免だし岩大砲にするかな。
ようやく決まったところで体の中の魔力を練る。
最初に魔法を知ってから、俺の魔力量もなかなか上がった。
今では使ってやらないと体から溢れ出そうな程だ。
その大量の魔力のほんの一欠片程を大砲をイメージして形取る。
イメージが明確なものになると同時に俺の目の前に土で出来た3メートル程の大砲が形成された。
いや待てよ、わざわざ大砲そのものを作らなくても球だけ作ればいいんじゃないか?
確か中級に泥団子みたいなものを撃つ魔法があったし、それを応用すれば出来るはずだ。
ということで、俺の顔程の土の球を空中に作ってみた。
イメージとしては海賊船の中にある真ん丸の鉄球だ。
ほぼ完璧な球形をした土の球は、密度を高めることで鉄には及ばずともある程度は硬度を高めてある。
うーん、なんか足りない。
これじゃただの硬い球だ。
もっと何か工夫を…あっ、形だ。
形を弾丸みたいにしてみるか。
そうすると名前が
俺は頭の中のイメージの球を弾丸の形に変える。
そして目の前の球はイメージ通りの弾丸に変わった。
俺は辺りを見回し、弾丸の的となるものを探す。
大きくもなく小さくもない丁度良い木を見つけると、弾丸に魔力を込めた。
「うーん、速さは大体100キロ位でいいかな?あまり速くすると木を吹き飛ばすかもしれない。1回死んだ木は戻せないし、瀕死の場合は戻すのに魔力を大量に使うし調整が難しいんだよな」
俺は、ぼやきのような独り言を言いながらも慎重に100キロを超えてしまわないように魔力量を調整する。
魔力を寸分違わず調整し終えてから弾丸を的に向けた。
「岩弾丸!」
本来必要のない詠唱だが、自分で作ったということもあってオリジナル魔法の時は必ず言うようにしているのだ。
弾丸の形をした土は俺の詠唱の後、空中で一瞬ブレた直後にその場所から忽然と存在を消した。
初速からいきなり100キロに達するのだから目で捉えられる訳もなく、消えたように見えたのだ。
弾丸自体は森の中へと消え去ったが、的になった木が弾丸の存在をひしひしと感じさせている。
木は幹の途中を半径10センチ程の円形状に消え去っていた。
木は幹が途中から抉られたせいでバランスを崩し、ミシミシ、ギギィ、バキッという音を立てて傾き出す。
俺は慌てて傾く木の下から初級土魔法の
木が1本倒れると周りの木も傷んでしまい、治癒魔法で治す数が増えてしまう。
「ふぅ、とっさだったけど倒れなくて良かった。やっぱり速度調整は難しいな。今度練習するか。
さてと、まずは的の修復からだな」
そう言うと、俺は木に近づいた。
的のある茂みの中に入り、他の木に損傷がないか再度見渡して確認する。
青々と茂る木々の奥の方に1つ、明らかに青い小さなものがあった。
その青は青というには深く、美しく、見慣れた色だった。
俺がまさかと思い近づいた。
近づくにつれソレはハッキリとその輪郭を露わにし出した。
青いソレの正体はアトミーだった。
彼女は怪我をしたのか、その白く透き通るような頰から一筋の赤い血を流して地べたに尻もちをついていた。
「せ、先生?なんでここに…?それにその血はどうしたんですか?
か、体は大丈夫ですか?いや、そんなことより、とにかくこっちへ!」
俺は慌てて近寄り、手を取った。
触れてわかったが、彼女の手は小刻みに震えていた。
才川くんと異世界転生 @921921
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。才川くんと異世界転生の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます