失われし文化

@okitunesama-11

第1話


妖怪、それは昔から伝えられている一つの御伽噺のような存在。


私は昔学校の授業の時に読んだ本の中に描かれていた妖怪の絵が今でも忘れられなかった。


汗も滴る程の暑い日の話だった。

私は夏休みの登校日の帰り道をダラダラと寄り道をしながら帰っていた。

いつもとは違う道をさながら未知の大陸を見つけようとする15世紀の航海士のように彷徨い歩いていた。


降り注ぐ太陽の光を浴びて避けようのないものを必死に避けようとしたいた。


家に帰ってもどうせやることもない。ならば何か面白いものでも見つけれたらと淡い期待を持ちながらただただ真っ直ぐ歩くだけだった。


「都会の奴はいいよな〜暇な時がないんだから」

と皮肉を込めた独り言を呟いていた。


ふと横を見ると獣道のような荒れた道が奥へと続いていた。


私は好奇心に負け整備もされていない草の伸びきった道を一人で歩いていくのだった。


5分も歩くと目の前に階段が現れた。

勿論、そこで引き返すわけもなく運動不足の体を無理に動かし階段を登るのだった。

階段自体はそんなに長く続いたわけではなく、すぐに登りきった。


そこには雄大な自然と一つの小さな社があった。

見る者の目を奪う程のその光景は恐らく毎日、いや毎秒見ていたって飽きないだろうと思えるほど私の心の奥深くに響いたのだ。


「こんなところに社があったのか」

恐らく誰も知らないであろうこの場所を知ったことに私は優越感を覚え少し気分が舞い上がっていた。

「それにしても周りの景色はともかくこの社は汚いなぁ」

恐らくは誰も知らないのだから掃除はされていなかった。

「折角景色は綺麗なんだ掃除ぐらいしてやるか」

と私は暇な時間を潰すために社の掃除を始めた。

ただ掃除といってもそんなに凝ったものではなく社の周りを拭くだけの簡易なものであった。

しかしそんな簡易なものでも意外と綺麗になるもので

「拭いてみれば意外と立派だな」

と罰当たりなことを言いながらやり遂げた達成感で心を満たしながら社の近くに横たわった。

少しずつ流れていく時と雲を尻目に私はふと目を閉じた。


次に見た光景は自分の部屋の天井だった。

私は目の前に広がるこの光景を理解できずにいた。

夢か現か分からずさっきまで社にいたことを思い出し

「夢か」

私の中で夢と結論づけられた。

「それにしても出来た夢だな」

私は夢から覚めるために自分の頬をつねってみた。

「いてて、この夢はいたさも感じるのか」

結局夢か現か分からず確かめるために居間にいった。

居間には普通にテレビを見て酒を飲む姿の爺がいた。

襖を開ける音で振り向いたじいちゃんは驚いた顔をして

「なんだお前起きたのか、まぁ座れや」

じいちゃんはテレビを消し私と面と向き合い真面目な顔で言った。

「男なら家出の一つや二つ探検の三つや四つするだろうがな婆にだけは心配かけんなそれが男っちゅうもんだろ」

といつものおちゃらけたじいちゃんからは想像もできないくらい真面目なことを言われたので放心状態となっていたが、

「違うんだよじいちゃん」

と弁明を図ろうとした。

「何が違うってんだいわけを話してみな」

私はじいちゃんに今日の不思議な出来事を話した。

二人の間に沈黙が続く。

「…すると、なんだお前狐に化かされたのか?」

「狐に化かされる?」

「おう、知らねえのか。ここら辺には昔人を化かすのが好きなお狐様っていう狐の神様がいたんだよ」

私は納得がいかなかった。

「じいちゃんそんなの科学的じゃないよ」

科学がどんなものかも知らないが自分が化かされたのが理解できなかったため屁理屈をこねた。

「馬鹿たれ世の中にはな科学じゃ説明できないもんもあんだよ」

そういうとじいちゃんはテレビをつけまた酒を飲み始めたのだった。

「まぁでも悪いことをしてんじゃねえってんなら怒ることはねえよ。俺も昔は無茶をいろいろしたからな」

と笑いまじりに言われた。

「いいよじいちゃん俺はもう寝るからな」

さっきまで寝ていたにも関わらずまた眠くなっていた。

自室に戻り部屋を見渡す。

何も変わったこともない何の変哲も無い小さな部屋だ。

「狐に化かされるか…」

未だに理解できず床に入り目を瞑った。


夢の中で誰かが私を呼ぶ声がする。

「…がとう」

よく聞こえない。

何て言ってるんだ。

「…ありがとう」


誰かが少し早足で部屋に入ってきた。

「大丈夫かい、怪我とかはないかい?」

その言葉で私は目を覚ました。

「う〜ん、ばあちゃんどしたの?」

「どうしたもこうしたもあるかい、夜になっても帰ってこないから心配で皆んなで探したら道の端っこで倒れてんだから心配したよ」

「まぁじいちゃんから話は聞いてるから大体の事は分かったけど本当に怪我はないのかい?」

「大丈夫だよ。平気平気。元気100倍だよ」

「ならいいけどあんたに何かあったらって考えたら心配で心配であんたは昔から時々変な事するから」

「本当に大丈夫だって。心配かけてごめんね」

「ならいいんだけど、朝ごはん出来てるから早く食べにきなさい」

「わかったよ」

というとばあちゃんは部屋から出ていった。

何だったのか今でも理解が出来ない。

じいちゃんとばあちゃんは狐に化かされたって言ってるけど本当にそうなのかと思う。

神様なんているのだろうか。

そんな疑問が私の頭の中を駆け巡っていたが。

ぐうぅ〜と腹がなった。

どうやら今は神様より飯の方が大事みたいだ。

居間にいくとじいちゃんはまたテレビを見ていた。

「おはよう」

「おうおはようさん。」

いつものおちゃらけたじいちゃんに戻っていた。

朝飯を平らげまた暇をつぶす1日が始まった。

「おう将棋指すか?囲碁でも打つか?」

とじいちゃんが言ってきた。

「ごめんじいちゃん俺出かけてくるわ。」

と言うと少ししょんぼりして

「そうか分かった昼までには帰ってこいよ」

「分かってるって」

そういって俺は食器を片付け身支度をして、外へと歩いていった。

今日も昨日と変わらず太陽の光が燦燦と降り注ぐ日だった。


「本当、夏は無駄に暑いな」

と暑さに文句を言いながら歩いていった。

今日はめずらしく目標があった。

昨日の社だ。

あれは何だったのかを調べるために昨日の場所を目指した。


途中でお供え物のお煎餅を買い、社へと向かっていった。


社には家から30分ほどあるけばすぐ着いた。

獣道のような道を通り階段を上がればそこには昨日見た絶景と小さな社がポツンとあった。


「あるよな…夢じゃないよな…」

ぶつぶつ言いながら社の近くに行き注意深く観察した。

別段何も変わったこともない。

普通の社だ。ただ少し違和感を覚えた。

「なんで奥に御札が貼ってあるんだ」

社は神を祀るものであり御札などが貼られるものではない。

なら何故貼ってあるのか。

気になればその疑問が解決するまで行動する私だった。

今思えば、なんて馬鹿なことをしたのだろう。

私はその御札を剥がしてしまったのだ。

その御札は白い和紙に読めない字が書いてあった。

ただ封と言う字だけは読めた。


私はその時後ろから気配を感じた。

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