過去 矛盾 最速の流れ (SF)
ある暑い季節の中、それは起こった。
昨日の最低気温を軽く下回る最高気温は路面が凍結するほど寒い。人々は汗ばんだシャツの上に大急ぎでダウンコートを羽織り、ストーブを引っ張り出し、スイッチを入れた。誰もが言った。これは過去の予測と矛盾する。異常気象だ。環境保護団体は声明を出した。これは人々が温室効果ガスによる地球温暖化に端を発した異常気象に他ならない。反環境保護団体は言った。温室効果ガスによる地球温暖化だというならば現在の天候異常性はむしろ寒冷化を促しており、やがては地球規模で氷河期に向かうだろう。
人々はこの二つの声明のうち、後者を選ぶ人が多かった。過去は暑くなり、しかし現在は寒く、未来はもっと寒くなるだろう。物事をよく知らずとも現在からすれば当然の帰結だ。短絡的な思考は最速で脳内を流れ、答えを導き出す。自分達が緩い地盤の上にいることも忘れて。
一方、前者は下を岩盤で支えられていた。科学的根拠の名の下に演繹的に積み重ねられた帰結は地層を読み解くことよりも複雑で、掘り進めて岩盤の中に何があるのかを全部把握する必要がある。故に答えも磐石であるはずだが、しかし岩盤は思ったよりも硬くまだほとんどを掘削できず、地面からほんの数メートルしか掘れずにいた。掘る人数は限られている。掘削用の機械の数は少なく、扱える人々はもっと少ない。複雑な思考は余裕を要する。だが、人々はより簡潔で最速な答えを望んでいた。
この数年後、人々はそれぞれ別天地で生活することを余儀なくされていくこととなるが氷河期は来なかった。まあ、きたところで……
成るように成るさ(ケ・セラ・セラ)。
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