夜空に願いごとをそえて。

@lunel

第1話 吾輩は猫になる。




 猫。



 猫、猫。


 野良犬は見ないけれど、私の町にはそんな猫さんがたくさんいらっしゃった。


 陽が出てポカポカ日和の日には、アスファルトの上でもゴロゴロと。

 もっと陽が出れば、影に隠れてどこかへ。

 雨の日は自分の寝床か、どこか、その居場所はわからない。



 猫、猫。


「こっちおいで」


 低い目線までしゃがんで、手招きをする。

 目が合って、立ち止まってくれる。でも、こちらへ来てはくれない。


 んー、もう。じれったいな。



「はい、綿あめ」



 夕暮れ時の屋台では、たくさんの人がごった返していたから、私は一人、少し離れたベンチを陣取って行列に並ぶ友達を待っていた。


「ありがとー。ん、おいしい」


「黒を選ぶなんて、意外だと思ったけどこう見るとよく似合うね」


「え、そう?ありがと」


 私は普段、暗い色の洋服を着ない。暗い色合いを身にまとっていると、心の中まで、暗くなる気がする。


「ほんとは、紺と迷ったんだけどね」


「そしたら私と同じだったね!」


 そう言って笑った。




 あ。


 猫。猫、どこかへ行っちゃった。




 黒い猫だった。


 白に黒。黒に、白かな?

 私の浴衣は、黒に淡いピンク色の帯だ。




「並んでたとき、先輩見たよ」


 口に入れれば一瞬で溶けてしまう綿あめを頬張りながら、その言葉を受け止めた。


「そっか」




 先輩。


 ほんとは先輩とこのお祭りに来たかった。



 友達。


 前から約束していたから、断れなかった。




 ああ、あの子みたいになりたい。


 猫、猫。

 自由でいいな。猫さんは。




 空を見上げると、薄暗くなっていた。星がもう少しで見えるか、見えないか。


「昨日のあれ、短冊、なんて書いた?」


 紺色の浴衣を着た彼女は、すでに食べ終わった綿あめの箸を振り回しながら尋ねた。


「えっとね、」







 Fin.

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