第9話

 街道を少し早足で歩き、出てきた魔物―というより野性動物の方が多かったが―を蹴散らして進み、モンテルへたどり着いたのは夕方だった。


「さすがに疲れましたね…。」

「あぁ…。」


ふらふらと疲れた足を引きずりながら待ちの明かりのともる方へ近づいていく。すると、暗闇の中から木でできた簡素な門が見えてきた。夕闇がせまるこの時間だからか、門は固く閉ざされている。それをティルアが軽くノックした。


「すいません。」


そう声をあげると、門につけられた小さな窓から門番らしき初老の男がひょいと顔をのぞかせた。その男にティルアが続けて言う。


「こんな時間にすいません。旅のものです。今晩、この町で宿泊したいのですが。」


「えぇ、構いませんよ。」


そう返した門番の男が俺の方に気づきいぶかしげに見やると、


「そちらは…?」


と怖々とティルアに尋ねた。


「こっちは私の兄です。」


全く動じていない微笑みでティルアが答える。


「兄さん、私のことが心配だってついてきてくれたんですけど、剣の腕とかからっきしで。だからちょっとでも怖く見える格好をしてるんです。」


「なるほど…。」


口には出していないが、いくらなんでも他に方法あっただろう、と門番の顔がいっていた。それをごまかすようにゴホンっと門番は軽く咳払いをし、


「ま、お疲れでしょう。とりあえずお入りなさい。」


キィッと音のなる門を開け、


「うちは小さな村だからね。宿も酒場も1つしかない。酒瓶の絵の看板が下がった左手奥の建物がそうだよ。」


と言った。


「ありがとうございます。」


ティルアがペコリと頭を下げ門を潜る。俺もその後に続いた。てくてくと教えてもらった店へと向かって歩き、やがて門番には聞こえない辺りに来たところで、


「うまくいったでしょ。」


ティルアが満面の笑みを浮かべながら聞いてきた。


「いや、かなり微妙だったと思うぞ。」


俺は、呆れながら答える。これが関所だとか警備の兵士を相手にしたらこうはいかなかっただろう。端から疑ってかかってくる相手だとさすがにさっきの話は無理がある。が、


「まぁ、でも。俺一人でいるよりはなんとかなった。ありがとな。」


頭をかきながらポツリと小さい声で礼を言った。一人だったらこんな手は使えない。となると村を迂回する必要があるため、その分、時間がかかるところだった。ティルアは、


「いえ、どういたしまして。」


とにっこり笑って言い、それからはっと思い出したように、


「それより、お腹ペコペコなんですっ!早くご飯食べに行きましょう!」


と、教えてもらった酒場へと駆け込んでいった。


「たぶん、酒場でもさっきの話使うんだろうな。」


頼むから酒場に警備の兵士とか、二日前の村長のような人とか、そういった厄介なのはいないでくれよ、と俺は一人ぼやくのだった。

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魔王の副官と白き華 風音 @Kazane0729

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