第8話 昔話

ここ二日間と変わらない、なんとなく気まずい空気。魔除けの魔方陣も書いていたしここ二日間、人里に近いせいか魔物に襲撃されることはなかったししばらく別行動しても大丈夫か、そう思った時だった。ティルアがその沈黙を破った。


「あの、」


「ん?」


俺は焚き火から顔をあげた。俺の顔を見ながらティルアは恐る恐ると言った風に口を開く。


「なんか…居心地悪いんでお話ししてくださいっ!」


予想していなかった答えに思わず言葉につまり、反応が遅れた。


「…話?例えば?」


「じゃあ…、アルヴィスさんが一番大暴れしたときの話について聞かせてください。」


「大暴れって。」


なんだそれは。俺は少し呆れながらティルアの方を見やった。子供のようにワクワクしたティルアの顔とかち合った。はーっとため息をはき観念した俺はポツリと話し出す。


「一番暴れたのは…そうだな、500年前の大戦の後だな。」


「大戦中ではなくて?」


「あぁ、俺は大戦中はオルゴスタンにはいなかったからな。」


と、いい終え俺ははたとそういえばティルアに自分が魔王の副官だと言っていなかったことに気がついた。一様、先の大戦をお伽話にしたものの中に自分の名前も出てくるが果たしてティルアは知っているのか。それを言おうか言わないか迷っていると、


「それでそれで、」


ティルアが目をキラキラさせながら先を急かした。まぁ、今はいいか。そう思いそれには触れず先を話す。


「同盟が締結して大戦が終わったことになったんどけどそう簡単にはいかなかった。」


パチッと火がはぜる。


「勇者の活躍で戦えなかった兵士とか、同盟締結に納得できない魔族が暴れたりしたんだ。」

「えー。戦わずに済んだんだから兵士の人からしたら喜ぶところじゃないですか。」


ティルアが不思議そうな顔をしながらそう言った。


「下っ端はな。ただ、上官とか貴族からしたら、武功も、戦いで奪うはずだった財宝も根こそぎ勇者に持ってかれたってわけだ。」


話ながらふと俺は懐かしい気持ちになった。前にもこうやって誰かに話をせがまれていたような、そんな気がする。誰かは思い出せないが。そこから俺は、そうやって暴れていた連中を押さえ込むべく奔走していた日々のことを話続けた。ティルアはそれを楽しそうに、時々驚いた顔を浮かべながら聞いていた。俺も気がついたら夢中で話していて、はっと思い出して焚き火に目をやった頃にはレント魚は少し焦げてしまった。だか、それでもとてもうまく、ティルアがあんなに嬉しそうな顔をした理由がよくわかった。そして、いつものように交代で火の番をしながら夜は更けていく。


翌朝、朝食を食べ荷物をまとめて、街道に出た。朝の冷たい空気をはらんだ霧がふわふわと道のいく手を隠す。その奥からは何も音が聞こえない。


「相変わらず、人気がないな。」


ありがたいと言えばありがたい。普通の街道なら朝は商人が行き交っていて、堂々と歩くことは難しかっただろう。だが、同時に、それはこの道の行く果てが困難なものであることを容易に想像させられた。ちらりと空に目をやる。霧が立ち込める地上とは違い、昨日と同じ青空が広がっていた。


「今日中にモンテルにつけるといいな。」


「そうですね。野宿は楽しいけど…そろそろふかふかのベッドで眠りたい…。」


「同感だ。そのためにも、少し急ぐぞ。」


「はいっ!」

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