第7話

しばらく地図を頼りに平原の中をさ迷うと広い砂利道に出た。


「これが街道か。」


「そのようですね。」


ティルアがきょろきょろと見回しながら答えた。見える範囲には誰もおらず、ただただ先程と変わらないのどかな道が草原を突っ切って延びている。とりあえず、街道を出ていきなり誰かに自分が魔族だということがばれるのは回避できそうだ。


「大丈夫そうだな。で、どっちだ。」


「モンテルは…あの山の麓です。なのでこのまま今向いてる方にまっすぐですね。」


「結構遠いな。間に町は。」


そう聞くとティルアは、軽くため息をつきながら


「ないですね。」


と即答した。


「てことは今日も野宿か。」


「残念ながら。」


別に、俺は外で寝るのは嫌いじゃない。が、さすがに何日も固い地面の上に寝てると体が痛くて仕方がない。


「まぁ、今日は我慢するしかないな。」


ため息をつきしばらく道なりに歩く。相変わらず、人気はない。


「なぁ、ほんとにこれ街道か。」


不安になり、ティルアに訊ねた。万一間違えていた場合、戻る時間が惜しい。ティルアは、立ち止まりじっと地図をにらんだ。


「あってますよ。」


やがて、ティルアは、そう答えた。


「人気がないのは、この道が三国関所に抜けるための道だからかと。」


「なるほど。確かに特別な理由でもなきゃこのルートは選ばんわな。」


俺はそう言う。ひたすら歩いていると、いつしか周りは深い森へと変わり、日も傾き始めてきた。


「今日はこの辺りで休むか。」


そろそろ明かりをつけなければまずいといった暗さになったところで道から少し外れたところにちょうどいい広場を見つけ、俺はティルアにそう声をかけた。


「わかりました。」


そう答え、ティルアが荷物の中からカンテラを出し薪をひろいに森へと入っていく。その後ろ姿を見送りながら見ながら俺は片手に簡易の燭台、もう片手に桶をかついで、水場を求めて同じように森へと入る。運よく10分ほど歩いたところで小川を見つけた。飲めるかどうか水面を覗きこむ。その時ちらり、と水の中を何かが動いた。


「レント魚か。」


レント魚は、動きが鈍く桶で掬うだけで捕まえられる。ただ、きれいな川にしか住まないためなかなか手に入らないと聞く。ついてる、と思いながら水を汲むついでにそれを捕まえティルアのもとに戻った。すでに薪に火がくべられ、ティルアが鞄の中からごそごそと携帯食を出して並べていた。


「あ、おかえりなさい。」


ティルアがこちらに気づき声をかける。

「おう。」


俺は短くそう答え、その横にトンっと水の入った桶をおく。


「ありがとうございます。って何これ、水の中に何かいる!?」


「レント魚だ。たまたま見つけたから捕まえてきた。」


そう答えると、ティルアが驚いたように言った。


「レント魚って、あれですよね!すごく美味しいのになかなか手に入らないって言う!」


「そうらしいな。食べたことはないが。」


「そうなんですか!じゃあ塩焼きにしましょう!シンプルな方が魚の味もよくわかると思いますし。」


ティルアが目をキラキラさせ少し前のめりになりながら、嬉しそうに言った。


「わかった。」


魚を串に指し焚き火のところに立て掛ける。その間、ティルアは水を含ませた枝を片手に隅の方へいった。なんでも魔物避けの魔法陣をかいているらしい。それが終わりティルアが焚き火のところへ戻ってきた。魚はまだ焼けていない。俺もティルアも何も言わず、ただパチパチと火がはぜる音だけが響く。ここ二日間ずっとこんな感じだった。当たり前と言えば当たり前だ。出会ってからたった二日。そんな短期間で自分のことをペラペラ話せるほど信用できるかと言われたら、正直無理だと思う。

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