二章 旅路

第6話 街道へ

 どこまでも広がる青い空の下に青々とした草原が広がっている。いや、ティルアの話ではただの草ではなく、ここエルバリスの特産品の穀物が取れる草らしいが。


ティルアと出会ってから2日、魔王のもとを飛び出してから3日。魔力はいまだに回復していない。いつもならとっくに回復しているはずなのに。やはり魔王のはめていた見覚えのない指輪のせいか。指輪にはまった全てを吸い込もうとするような禍々しい真っ黒な石を思い出す。いったいあんなものどこで手に入れたんだ。畦道を歩きながら考え込んでいると突然、ふわっと何かが顔に触れた。はっと周りを見回すと、むっとむくれたティルアの顔とかち合った。その手には何やら先がもふもふした草が一本。


「ん?なんだ。」


「いえ、何回話しかけても上の空だったので。」


そう言いティルアは下を向いた。


「…悪かった。それで、なんだ?」


「どのルートを使ってメルケルツまで行くのかなって。」


ここからメルケルツに抜ける道は3本ある。


一度南下し南の鉱山の国アントラッテ帝国を経由する道。


北上しオルゴスタンを経由する道。


そして、もう一つはこのまままっすぐ進み、季節によっては吹雪が舞うような、険しい岩山をこえ三国関所に抜ける道。


「決まっている。この目の前の岩山を登って三国関所を越える。」


俺は迷わず答える。ティルアはそれを聞き驚いたようにこちらを見た。


「今の時期だとこのルート、山の上はかなり雪が残ってるんじゃ…。」


「けど、ここしかない。」


ティルアの言葉を遮り俺はそう言う。


「魔王と敵対した以上、下手にオルゴスタンには戻れない、どこで足止めをくうかわからないからな。アントラッテは魔族を迫害し続けてきた国だ。だから、そこの関所は、俺がいる以上通れない。」


「なるほど。確かにそうですね。」

ティルアは頷き、


「なら、どこかで山越えの装備を整えないと。」


そう言いながらごそごそと地図を開く。ティルアと出会った最初の町で買ったものだ。街道ではない細かい道もしっかりと描かれていてあまり目立たないように移動するのに役に立った。そのお陰で2日連続野宿だったが。


「山に入る直前に、モンテルという村がありますね。」


ティルアが地図の一点を指す。


「とりあえず、そこに向かうか。」


「でもそのためには街道に出ないと。」


ティルアがちらりと俺を見ながら言う。言われなくともわかる。このまま出ていったら魔族だってことがばれて面倒なことになる。さて、どうしたものか。と、ティルアが鞄をごそごそさぐりだした。鞄から出された手に握られているのは、布切れ?いったい何をするつもりだ。ティルアはちらりとこちらを見、


「ちょっとじっとしていてくださいね。」


と言った。あっけにとられ、ティルアにされるがままになっていた、その数十分後、


「はい、こんな感じでどうでしょう!」


そういい、ティルアが鞄から手鏡をだしこちらに差し出した。受け取ってちらりと鏡に写った自分の顔を見、


「…なんか余計に怪しさが増している気がするんだが。」


俺はポツリとそう呟いた。とりあえず、魔族の証とも言える赤い目は布切れで隠し後は人より少しとがった耳を隠すために髪の毛をボサボサにされたのだが…。


「うーん…。」


ティルアが俺の正面に回り込み出来映えを確認する。


「よしっ!」

「いや、よしじゃないだろ!」


どこの盗賊だ!?ティルアが本気を出した結果、武器を持たせたらいかにも町を襲いに来ましたと言ったあやしい人に俺はなってしまっていた。


「別の意味で町に入れてもらえそうだ…。」


そういい、俺は下を向く。こんな怪しげな格好、下手をしたら警備隊に詰問されるだろう。どっちにしろ最終的に魔族だと知られ怖がられ追い出されるのが目に見えている。


「大丈夫です!何とかします!」


そんな俺を見ながらティルアはそういい、任せろっと言うように拳で胸を軽く叩いた。


「盗賊を捕まえてきましたとかいったら怒るからな。」


何をいっても無駄だと悟った俺はそれだけいってため息をついた。そして空気を変えるように、言う。


「で、どっちに歩けばいい。」

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