エンディング
あと一歩踏み出したなら、夜空に手は届くのだろうか。
どれだけ遠いところへ向かうにも、まずは一歩から。気が遠くなるような理想にも、そうやって少しずつ近付いていく他にはない。
自分がどうやって選ばれたかは覚えていなかった。
盛大に焚かれている炎の明かりに空は霞んで見えた。石組みの祭壇の上、正面を向けば眼下の少し離れた場所に、たくさんの人影がある。静かにこちらを見守っていて、物音といえば背後でバチバチと炎にくべられた薪が爆ぜる音だけ。大きな篝火が自分の影を真っ直ぐ前方に落としている。
自分が望もうが、望まなかろうが、選ばれた者でなければ手が伸ばせないものはあった。そして、誰にだって欲しいものや大切にしたいものがあった。ときに人は自らの領分を超えて多くのものや遙か高みを望む。あるべき形は見えず、叶いそうにもない夢であったとしても。それを引き受けるのが自分に与えられた役目でもある。
――「神」であること。
実現できるかどうかではない。実現させる術があると思えること。見込みがあると信じられること。「祈る」相手を用意することによって、人は希望を抱き生きていけるのだ。であれば、断言しなければいけない。「望めば叶う」と。「自分が叶えるのだ」と。
そして沈黙しなければいけない。意思を持った神によって、皆の望みは叶えられうるのだと誰もが信じていくために。
如何ほどの力を得るのだろう。その全てを叶えることはできるのだろうか。希望を守ることができるだろうか。大きすぎる力は振るうことを禁じられるかもしれない。そうなったとしても、人々はきっと、目の前に希望がある限り自分の足で歩み続け、「神の力」だと信じながらも「自らの力」で望みを叶えていくだろう。
人々が、そして自分が歩いて行く道の先には何があるのか。遠くはおろか近い未来も見えはしない。明日のことさえ分からない。かくは、やみ。
しかし見通せない未知だからこそ、明かりは必要なのだ。
夜空に月が昇り、暗闇を照らす光となる。――それが、人々が自分に望んだ「神」の姿であり、その神に与えた名前である。
夜空を灼いて、眠りにつくまで なるゆら @yurai-narusawa
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