番外編

「ラ・ラ・ライトノベル」番外編です。

本編は第12話で完結ですが、本編に盛り込めなかった設定などがあったので、オマケに書きました。

一応、本編のネタバレ的な部分もあるので、本編未読の方は1~12話を先にどうぞ。



 ※※※※※※※※※※


 文化祭が終わってしばらくした月曜日。俺はヒロインたちから逃げ回っていた。とは言え、以前のようにラブコメフラグから逃げ回っている訳ではない。あの文化祭の一件で、ラブコメ的な世界観はすっかり消え去っていた。しかし、その代わりに違う世界観が俺の日常を侵食し始めていた。

「見つけた! 今日こそわらわとお主、決着をつけようぞ!」

 紅い髪の魔王が叫んだ。


「『真っ赤な夜レッドヘアード・バックベアード』!!!!」


 叫びとともに、魔王の紅い髪が意志を持ったように蠢き出した。紅い髪は尋常でない速度で俺に襲い掛かる。俺は転がるようにしてそれを避けた。

 そう、文化祭以来、能力バトルの世界観が色濃くなっているのだ。元はと言えば、文化祭の時に、死神が『ひとでなし天使エンジェル・ダスト』と叫んだのと、超能力者も『夢みる機械パプリカ』と叫んだせいだ。死神はセンスが九十年代で止まっているとしか思えないし、超能力者の方は元ネタが微妙過ぎるだろう。アイツ、完全に中身がアニオタのおっさんじゃないか。

「ふはははは! 何をぼうっとしているのだ? よそ見していると、我が美しき赤い糸が、お主の心の臓を締め上げるぞ!!」

 うわ! 魔王っぽい、コイツ、番外編で初めて魔王っぽいぞ!

 俺は反撃できずに、避けるので精一杯だった。しかしそれは、手も足も出ないからではない。以前、反撃して魔王の髪を切った時、「わらわの自慢の髪、切ったぁ~!」と子どものように大泣きされたのだ。しかも、他のヒロインたちにも、「女の髪切るとか最低……DV夫みたい……」と総スカンを喰らったのだ。ゆえに、俺は反撃できなかった。もうあんな肩身の狭い思いはしたくない。

 俺はなんとか蠢く紅い髪『真っ赤な夜レッドヘアード・バックベアード』を避け、魔王から逃げた。


 魔王から逃れ、ひと息ついていると、上から声がした。

「油断大敵よ!!」

 慌てて避ける。一瞬前まで俺が立っていた場所に、クレーターができていた。

「さあ、今日もスパーリング相手、よろしくね」

 黒髪の幼なじみがそう言って笑った。

 パンチで床にクレーターが作れるとか、まともにスパーリングに付き合ったら死んでしまう。本編で二回も死んだのに、番外編でまた死ぬの? 死に過ぎじゃない、俺?

「さあさあ! 行くわよー!!」

 幼なじみのハイキックが飛んでくる。間一髪避けたが、俺の後ろで校長の銅像が砕け散った。本編最終話で後付けされた「古武術道場の跡取り娘で、体術レベルは全ヒロイン中最強」という設定が、番外編になって輝いている。

「もぉっ、逃げ足だけは早いんだから……。こっちも本気を出すしかなさそうね」


「『相愛的終身刑ガールフレンド・パニッシュメント』!!!!」


 叫びとともに、幼なじみが十人に増えた。

「分身じゃなく、十人ともが本体! さあ、十人の波状攻撃に耐えられるかしら!?」

 一人でも殺されると思ったのに、十人とか十回以上死んでしまう。

 俺は猛ダッシュでその場から逃げ出した。


 人目につきにくい校舎の陰で身を潜めていると、「おにーちゃん発見!」という、聞き慣れたロリ声がした。そしてそれに続いて、左・右・上の三方向から声が響いた。


「『百発百chu❤シスター・キューピッド』!!!!」


「『三点責めスリー・ポイント』!!!!」


「『超絶技巧の怠け者ドント・セイ・レイジー』!!!!」


 弓道部の後輩、バスケ部の先輩、軽音部の従姉妹だ。こいつら、いつも三人同時に出てくるな。

「『百発百chu❤シスター・キューピッド』は、具現化された弓矢をヒットした場所に、キスマークを付ける能力! 能力バトル、ラブコメ、どっちにも対応できるようにしてみたよ! おにーちゃん!」

「『三点責めスリー・ポイント』は、バスケットボールを自由に操り、任意の三カ所を性感帯とする能力だ! 能力バトル、エロコメ、どちらも対応できるようにしてみたぞ!」

「『超絶技巧の怠け者ドント・セイ・レイジー』――。これは、ギターの音色で相手の精神状態を操る能力だ。主に、エロい気分にさせることができる。まー、ロックってそういうもんだからねー。バトルにも十八禁にも対応できるようにしてみた」

 全部一緒! 使ってる道具が違うだけで用途は、全部エロ目的じゃねえか! 本編より積極的になってんじゃねえよ。

 エロいことされる前に逃げた。


 しかし、すぐに学校一エロい人である、保健室教諭とエンカウントしてしまった。

「おやおや、エロいことの匂いにつられてやってきたら、可愛い男の子がいるじゃないか。フフ、出し惜しみは性に合わないものでね。早速私の能力をお見せしよう」


「『名器・愛メイキン・ラブ』!!!!」


「説明しよう! めちゃくちゃ気持ち良いあんなことやこんなことで、私以外の体では満足できなくなってしまう能力だ! さあ……、童貞を捧げよ!」

 ただの痴女だった。保健室教諭以外に適職が色々あり過ぎるだろう。

 ちょっと味わってみたい気がしたが、逃げた。


 さすがに疲れたと思っていたが、今度は真正面から生徒会長がやってきた。まずいなと思い振り返ったが、背後からは副会長が近付いてきていた。どちらもゆっくりと、しかし確実に距離を詰めてきていた。こういう堂々と挟み撃ちしてくる敵、めちゃくちゃ能力バトルって感じするなあ。スタンド使いっぽい。感心している間に射程距離に入ったらしく、二人は同時に叫んだ。


「『生徒会の二心クリーム・アンド・チーズ』!!!!」


「これは、私と副会長がぴったりと呼吸や動きを合わせ、前後左右から攻撃する、舞のような攻撃ですわ!」

「ただ攻撃するだけでなく、私と会長はお互いに存在を入れ替わることもできる! これにより、変幻自在の動きで相手を翻弄する、覚悟しろ!」

 何だかよく分からない能力だが、何よりも能力名がライトノベル的にガチのやつで、色々大丈夫なのかそちらの方が気がかりだ。本当に、怒られないだろうか。

 とりあえず、二人が周りでくるくるしているだけだったので、簡単に逃げることができた。


 さっさと家に帰った方がいいかもしれない。そう考え、教室にカバンをとりに戻ると、今度はそこで担任教師に遭遇した。

「ほう、自主的に補習を受けに来たのか? 君にしてはなかなか殊勝な心がけだな。ならば、私も教師として精一杯期待に応えないとな」


「『教科書真っ白シラバス』!!!!」


「これはテリトリーに干渉する能力でね。私が出した問題を解くまで君はこの教室から出られない。勉強だけでなく、プライベートの質問なども含まれる……ま、尋問系の能力だと思ってもらったらいいだろう」

 英語と数学の補習をこなし、最近ハマっている音楽の話などをした後、解放された。普通に補習授業と雑談だった。


 やっと帰れると思い、校門を出ると、後ろから声を掛けられた。

「あ、あの! 能力発動していいですか……?」

 異世界ヒロインだった。もうちょっと聞き方があるだろう。ダメだって。

「ありがとうございます! じゃあ、攻撃しますね」

 もはや、メンヘラとかじゃなく、純粋にヤバい人じゃないか。


「『処女神転生ヴァージン・スーサイド』!!!!」


「これは、私のダメージをそのまま、相手にお返しする能力です。つまり、私が風邪をひくと、あなたも風邪をひいちゃうんです! そして……今の私は、花粉症ですよ!」

 うああああああ!! 猛烈に目が痒くなり、鼻水が止まらなくなった。

 その後、二人でひとしきりクシャミをし、それぞれに下校した。



 ※※※



「――とまあ、こんな感じで、今は今で大変だ」

 俺は、死神と超能力者に、最近の能力バトルラッシュについて話をした。文化祭以来、この二人とはなんとなく仲良くしている。

(いつでも、続編、書けるね)

 メタ的な発言はやめろ。

「そう言えば、みんな能力に目覚めたのに、何で、あなたには能力らしい能力がないのかしら?」

 言われてみればそうだ。

 しかし、主人公が無能力者という設定も、今ではテンプレになっているし、よくあることなのかもしれない。

(性格、悪い。これ、能力)

「ああ、そうね。あと、すぐ屁理屈こねるとこかしらね」

 やかましい。


 結局その後、死神と超能力者に無理矢理、俺の能力を名付けられた。

 性格が悪く、口が悪く、すぐに屁理屈を言う能力。



「『正論を述べるライト・ノベル』」



 なるほど、正論ほど人を傷つけるものはない、ということか。

 やれやれ。

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ラ・ラ・ライトノベル 野々花子 @nonohana

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