幸福の残尿感

このところ、僕は大変満たされていた。そうなるといつの間にか誰も注目してくれなくなる。僕が何かを発しても、取るに足らない薄っぺらな言葉で、誰かの心に届く実感が無いのだ。


僕は努力する。前向きに努力。

ふと手が止まる。出来てしまったら終わってしまう。考えると頭痛がしてくる。


昨日クラスメートの家が燃えた。彼女はみんなから励まされていた。ふと笑うのだけど、ふと視線を落とす。僕は満たされている。そんな風にはならない。


授業中手紙を書いた。大変だけど頑張ってね。

彼女の机に入れた。

それを彼女は次の日の授業中じっと見ていた。

放課後1人で教室で見ていた。

僕は名前を書かなかった。

だからずっと見ていたのかも。

見ているときの彼女は無表情だった。無表情、今まで見たことのない顔で、何だかそれが綺麗だと思った。

手紙を胸に当てたまま彼女は帰る。どこに帰るのだろう。追いかけられなかった。

満たされた僕が、今の状況の彼女の今住んでいる家を探るのが卑劣な行為な気がした。


胸に手紙を当てたまま彼女は帰っていく。後ろ姿が小さくなっていく。


僕の手紙が少しでも彼女の心の穴を埋めてくれますように。

僕の満たされた幸せの力が、

彼女のこれからの人生を、少しでもいい方向へと導いてくれますように


思った気持ちは神社の前で手を合わせるように薄っぺらなままだったけど、思ったら何かいい事がありそうで、思ってみた。


その後僕は色々なものを失った。

失った今の方が密度の濃い時間を送れている気がする。

満たされていた時間の最後のこのころのことを思い出すと、自分が一番出来てよかったのはこの事だったと思う。


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残像 廃他万都 @haitamanto

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