視覚的強迫観念

私の名前はちょっと角ばっている。横に長すぎると思う。もし変えるならば縦にちょっと伸ばした方がいい。でも考えるほどに台形の底辺がしりすぼみに見えたり、逆に上の辺との差が無いように見えたりする。


私の名前は左右対称である。どの部分も左右が対称で、四角で成り立っている。

これは名前というより記号なのではないかと思うが、漢字は元々象形文字、記号なのだ。音は視覚に変換する。


音には色がある。色にもまた音がある。時間によっても音の色合いは代わるし、色みによって聞こえてくる音の質はそれぞれに違う。

細かい砂粒と岩石の転がる音が全く違うように、青と赤の出す音は違うのである。


音だけではない。味覚も色によって違う。合成着色料は顕著である。合成着色料は大体色味の基本となるような尖った味をしていて、天然物はそれに様々なものが混じり合って、濁った色味の味をしている。合成着色料、昨日のちらし寿司の卵とさくらでんぷに使われていた。これらの多くは石油から作られるのであろうか。石油は水たまりに混ざるといびつな虹の膜を作り出す。その膜を掬い上げても掬い上げても、なかなかつかまらないし、元の水たまりも相変わらず虹の膜をブヨブヨと汚らしく光らせている。トラックのタイヤが水たまりを弾き出す。


弾かれた先にコールタールが溶け出していたところ、また別の虹が動き出す。

虹は水を辿って、何処までも遠くへ弾かれていく。


傘をさしている。ビニール傘は先ほどの強風で骨を全て逆向きに折られてしまった。まるで老人の怒りを抑え、呪い殺すとでも言いたそうな不吉な形状を感じる。


傘を差している。でも雨は止んでいる。傘を畳もうとする。傘は逆向きに折られてビニールが旗のように舞っていた。これをどうしようか。私は途方にくれる。着た道を振り返ってみる。ここはどこだろう。どこだかわからない場所に私は行くつもりだった。捨てるべきではないゴミの数々は色とりどりの宝石のようにきらめいて、空々しい装飾を施されて、私を薄暗い藪へと葬って行く。あなたが美しいから見ていた。美しいまま表面の鮮やかな果皮を眺めていたが腐ってしまっていた。

私は一文無しになり、もう行く場所もない。しかしこの世は美しい。景色の綺麗な高台に登り、朝から晩まで眺めていよう。帰る場所がないならずっとそこにいよう。

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