恋の顛末
a-x.b-5.
蛇足ながら、その後のことを少しだけ語ろうと思う。
身体をずたずたにされながらも、驚いたことに、なんと僕は生きていた。目を覚ましたのは、既に桜の蕾が膨らみ始めた春先のことで、僕と敷島さんの同棲生活が始まってから四半期近くが経過していた。
敷島さんは、自殺したと聞かされた。マンションの十数階から飛び降りたとのことで、死に顔を見たいという僕の意見は当然却下され、しかも、メディカルチェックを強制させられた。
その晩に僕は飛び降り自殺を試み、失敗した。まあ、病院だし、階層も低かったので、仕方のないことではある。後日見舞いに来た親には、流石に怒鳴られるかと思ったのだが、泣かれた。これは、地味に堪えた。敷島さんの家庭事情を、先日、目が覚めた時に簡単に聞いていたので、より胸を打たれた。彼女こそ、うちのような恵まれた家庭に生れ落ちるべきだったのにと、僕は心底思った。自殺する気は、それ以来、起きなくなった。
学校に出られるようになって、(周囲には転校を勧められたが、)敷島さんのことが、学校中に知れ渡っていることに僕は面食らた。僕は今まで敷島さんを見ている側だったので、見られる側になるのは、なんだか気持ちが悪かった。
そして、蛇足を承知の上でこの後日談を設けたのは、一年の頃の教室の、僕のロッカーの中に置かれた、見覚えのない文庫本をぱらぱらと捲ってみていると、ひらっと、彼女からの手紙が花びらのように舞い落ちたからなのである。
――ありがとう。
謝罪でも、愛の告白でもなく、そこには彼女からの感謝の意だけが、簡潔に記されていた。
敷島さんの呪われたナイフ 白神護 @shirakami
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