終章 あたりまえじゃん、冬なんだから

「でもさ、どうしてここがわかったの?」

鈴葉が不思議そうな顔をしている。

「鈴葉のことが好きだから」

「何それ」

「ごめん、嘘」

「嘘なの?」

「好きなのは嘘じゃないよ」

嘘なはずがない。


「ただ、夢の中で行った場所はほとんど知らない場所だったけど、ここだけは知ってるなと思って。それって鈴葉が本当は現実に戻りたがってるってことだろ? だからここにいると思った」

「ふーん、かっこいいじゃん」

「まあ、ホントは他にアテがなかっただけだけどな」

「何それ。恭也ってそういうところあるよね。やっぱりずるい」

そう言いながらも鈴葉は笑っていた。


「それでさ、もう一回聞きたいんだけど」

「何を?」

「わかるでしょ」

わかる、確かにわかるけど、

「恥ずかしいから、やだ」


「えー、ケチ。なんだよ、もー」

鈴葉はそういうと、波打ち際まで走っていった。

「風邪ひくぞ」

海の中に入っていった鈴葉に声をかける。

「そしたらそばにいて看病してくれるんでしょ?だからいいの。 恭也もきなよ」

そう言うと、鈴葉は俺の手を引いて海に入った。

なんか、前にもこんなことがあった気がするな。ただ、その時と違うのは、


「寒っ」

「あたりまえじゃん、冬なんだから」

叫んだ俺に、笑いながら鈴葉が言った。

鈴葉がそう言っているのがおかしくて、俺も笑った。


そうだ、冬は寒いし、休みは少ないし、田舎は退屈だけど、それでも……それでも鈴葉がいてくれるならそれでいい。

それだけで、この世界は夢のセカイよりもずっと輝いて見える。


そんな世界でなら恥ずかしいのもしょうがないか。

俺は覚悟を決めて、名前を呼んだ。

あの時と同じように、だけど、あの時とは違う世界で。


「なあ、鈴葉」

「なに?」

鈴葉がふりかえる。

それを見て俺は確信した。

やっぱり俺は、どんな世界でも、どんな時でも鈴葉が……


「好きだ」


「うん、私も。大好き」

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夢で出会った子に恋をした 湯浅八等星 @yuasa_1224

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