第2話

終始の手記




つまらぬ人生を歩んできました。


今の私には、何も言うことなどありません。

ただ私には、背負いきれぬ程の後悔と、なけなしの涙のみが残っております。

この手記を読んだ誰かは、私のことを笑うでしょうか。

大馬鹿者だと、蔑むでしょうか。

はたまた、興味さえ抱かれないのでしょうか。

そんなことは、私には到底わかりもしません。最早、知る由もないのです。

しかし、それでいいのです。

なぜなら私は、私が嫌いなのですから。

このようなつまらない人生しか歩めなかった私を、私は心から恨み、憎み、嫌っているのです。

何と、滑稽なことでしょうか。

もしも、本当にもしも、私の人生を小説にするのなら、それはきっとひどく短く、つまらないものになるでしょう。

そしてその小説の題名は、きっとこうなのでしょう。

『無題』。

名前さえつける価値のない、中身の薄い短編小説。

それはきっと、私の恥を無様に晒しているに違いないのです。


私は、海と畑の広がる田舎の一軒家に、一人娘として生まれました。

物心つく前に両親は離婚し、私は母と二人暮らしをしていました。

母はよく私のことを「雪、雪」と言って可愛がっていたようですが、実際のところはあまりろくな世話などされず、ゆりかごに置き去りにされていたり、ベッドに投げ出されたり、そんなことを日常茶飯事にされ、結果的に祖母が毎日のように飛んできていました。

そんな家庭で育った私は、母を頼りにすることなく、本を読み漁ったり、大人の会話を聞くことで知識を得ていきました。


しかし、私は、人付き合いがどうしても苦手で、上手くいかなかったのです。

ですので、私は皆に好かれるよう、笑顔を作るようになりました。

すると、たちまち私は人気者になりましたが、その代償か、私は他人に嫌われることに大きな恐怖を抱き、いつしか他人の目を気にしながら生きるようになりました。

その頃からか、私の中に、私以外の誰かが住み始めたのです。


「ゆきちゃん、ゆきちゃん、遊ぼうよ」


仲の良かった、近所に住むななちゃんや、幼馴染のともきくんとあんちゃん、こうきくん。

みんなに好かれたくて、私ではない私が、いつからか私自身を蝕むようになりました。


「ゆきちゃんは、優しいねえ。きっと、将来も、いろんなひとの役に立つんだろうなあ」


ななちゃんの言ったその一言が、嫌な意味で本当になるなんて、当時の私は思ってもみなかったのです。

否、思いたくなんて、なかったのです。

なかったの、です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『無題』 黒瀬 憂 @Yu_Black

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る