第十一話「私はあやふやな世界で存在する」

 低い地鳴りのような音が聞こえた。音の発生原は江田えださんだ。つまり、彼が寝た事を意味する。


 なんだか、その音を聞いていたら可笑しくなってきた。


 緊迫していたのは私だけ?どーせもう死んでいるんだし、何も怖くないじゃない。クスクスと笑い出す私を見て粕谷かすやさんは溜息を吐いた。


「まったく江田には困ったもんだ。こっちは真剣なのに」

 頭を掻きながら彼は私に言った。


「私はこの生活を満喫している。霊体の存在だから時間を惜しみなく使用できるし、沢山の研究に没頭できる。江田のように本性を知っていても、何変わることなく接してくれる者もいるしね」


 いつもの粕谷さんの雰囲気に戻った。ヘラヘラとしゃべる彼を見ていると何か試されたように思える。


赤宮あかみあさんに渡した鈴。そう、その猫の鈴だ」

 彼からもらった鈴を摘み見る。


「その鈴が赤宮さんを留めている。成仏したくなったら棄てればいい。煙のように消えるから。私を留めてくれた人はそうやって成仏し居なくなった」


「粕谷さんを留めた人?」


「あぁ、気も強い女性だった。ま。話すと長くなるから」

 はにかむ彼は少し悲しそうにもみえる。


「成仏か……今は興味ないかなぁ」

 これは私の本音だ。根拠なくワクワクしている自分を感じる。


 独りでいる時の感覚に似た感情なのか。それとも……。


「どうだろうか? 赤宮さん。私と一緒に幽霊とは何か。人とは何か。この世界とはどんなモノなのか探求してはみないかい?」




 答えは決まっている。










 記憶とはあやふやなモノです。




 あなたが幼い時に憶えているモノは本当の事だったのでしょうか?


 夢に見た内容はあやふやで、起きてから数時間で改竄かいざんされているのではないでしょうか?



 この世界はどんな時でも、あやふやだったりするのではないだろうかと思うわけで……。




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