第39話

――どう食べればいいんだろうな、この定食に対して


 量自体は少ないうどんである。

 さりとて、うどんである。

 だが、うどんである。

 出汁。揚げ玉。少量のネギ。何もおかしいところなどないうどんはほのかに湯気を立てていて、温かいうどんだということはわかる。

 しかしうどんであることそのものが問題なのだ。

 主食と主食が被っている。

 あっさり目のかけうどん。煮魚と共に食べるには味が濃いし、おかずとして食べるには薄すぎる。

 まさに不思議なうどんだ。


「えいっ」


 疑問に思ったが吉時だ。SR子はうどんの小鉢を掴み、すすった。

 だが。

 ぶよん。


「?」


 ?


 ??


 ???????


 ズッ。

 ズッズッズ! ズルズルズルズル!


「このうどん……美味くないな」


 ぶよぶよ。

 ゆで過ぎである。

 この完璧と称するに相応しい定食で、これだけ明らかにクオリティが違う。思わず一気にかき込んでしまったくらいだ。

 だが、ここで、記憶が蘇る。

 そう。一番最後に、外食に行った時のこと。

 N子がいなかった時に食べたものの記憶だ。


――そうだ。あの時も洋食屋に行ったんだ。それで私だけカレー注文したんだけど、それだけマズくてマズくて。結局、SSR子とR子と兄さんとで協力して食べきったんだ。


――それで私だけお腹いっぱいにならなかったから追加注文したガーリックトーストが今度は凄く美味くて、SSR子とR子も注文しだして、今度は食べきれないって言いだして……


――ほんとみんな、アホだよなあ。


 SR子は心の声と裏腹に頬を緩めていた。



「ありがとうございまシター!」

「ご馳走様。美味しかったよ」

「あ、マジですかー! うどん失敗したけどまーいーやって思って出したんデスけど美味しいんデスねアレ!」

「失敗したのかやっぱり! アレだけ妙にマズいと思った!」

「まあそれはそれデスよ! じゃあ、また!」

「ああ」


 SR子は満腹を抱えて敷居を跨いだ。

 そして、電脳空間故の、奇妙な空を仰いだ。


――ようやく腹が満たされた。夕飯は頑張って食べよう。そう思った。


――数時間後、食べきれなくてN子に怒鳴られたのは言うまでもない。


 バカバカしくて騒がしいボックス村を生きる者の、小さな小さな1ページ。

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YES拡張NO売却! ボックスはもういっぱいです 庵治鋸 手取 @fkmsog477567

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