自分の感情を表に出せない主人公。そんな主人公が、偶然耳にしたピアノの音色に…。
美和さんの、祖母を亡くした哀しみや、それに耐えなければならないという思い、ノクターンを聴いたときの感動を味わえて、読んでいると感傷的になってゆきました。祖母との別れと、少年との素敵な出逢い。雨上がりの風景や月などの情景描写と、ノクターンに心奪われ、それと同時に過去を思い出して秘めていた感情が溢れ出してゆく様子の、丁寧な心理描写。それらが次第にリンクしていく感じがして……うっとりするような読後感です。
子どもの心と音楽というのは、小説で表現することが難しい二大要素だと思います。子どもの心は文章で描写しすぎれば、子どもらしくないものになります。しかし子どもの心を想像することは大人には難しいので、描写が薄いと子どもに感情移入できません。しかし今作はその2つを見事に、そして調和させて描いています。そこに夜想という風景描写も合わさっているのですから、これはもう、文句なしで星3つです。
いろいろ背負い、感じて生きるけれど、それを超えて響いてくる音楽がある。落ち着いた表現も心に響きます。