エピローグ

仮説「素顔の仮面」

「かおりんが、そんなことを言ったのね」


 屋上で、心一と凛はベンチに腰かけている。隣同士で、一人分の隙間を空けて。


「うん、ぼくには意味が分からない。だってぼくは、花園先輩が確かに好きなんだ」


 凛が空を見上げた。太陽が、青い空を赤く染め、雲までも赤く染めてしまっている。


「私にも良く分からないわ。でも、一つだけ言えるのは、人はホロウが無くても、自身を仮面の下に隠してしまうことができるっていうことよ」

「つまり、彼女はホロウをつけていなくても、仮面をつけて普段の生活を行っているってこと? でも、一体なぜ? それならホロウをつけた方が良いじゃないか」

「うーん、それは良く分からないわ。何か事情があるのかもしれないわね」


 ホロウをつけられないような事情とは、一体なんだろう。心一には分からない。この世には分からないことが多すぎる。特に女の子は、心一とは違う種類の生命体なんじゃないかと、最近思うようになっている。


「心一、ありがとう。私にかおりんへの告白をしないでいてくれて」


 凛が笑う。柔らかい微笑みだ。笑い方にもたくさん種類があるんだ。ホロウではどれぐらい再現できるのだろうか。全部ではないだろうと、心一は思う。


「ああ、それか。だって、ぼくは熱血馬鹿だからね。真っすぐじゃないことは嫌いなんだ」

「ええ、あなたは馬鹿だわ。そして私も、大馬鹿者だわ」


 凛が立ち上がった。沈みかけている太陽を見て、言う。


「さあ、行きましょ。部室でみんなが待っているわ」

「え、何で?」

「今から新入部員の歓迎パーティをするのよ! 盛り上がるわよ!」

「あの、ぼく告白して振られたばっかりなんだけど……」


 しかもそのパーティメンバーは全員心一が振られたことを知っていて、さらには心一を振った張本人がいたりするのだ。


「恥ずかしさと気まずさで顔を合わせにくいんだけど……」

「今さら何言ってるのよ! 私たちの仲じゃない!」

「それはつまり、部活仲間ってこと?」

「は? 何それ。あなたまだそんな風に私たちのことを考えているの?」


 凛が屋上の扉の前で、心一を待っている。心一は重い腰を上げると、凛の元へ歩いて向かう。心一と凛は二人で片方ずつ、ほぼ同時に両開きの扉を開く。


「私たちは首なしの騎士デュラハンよ。つまり、同じ志を持った戦士だってこと」

「余計イメージし辛いんだけど!」

「ええと、つまり、最高ってことよ!」


 凛と心一は、薄暗い階段を二人で下りる。夕陽の差す四階の廊下は、すぐそこだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

《対セイネン期意思疎通許可証持ち》(ライセンス)持ちの《恋愛高等技術》(ラブセンス)⁉ 言霊遊 @iurei_yu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ