4.探索

 ユキさんと出会った階の探索を続行する。壁に隠し扉がないか、どこかに脱出口がないか、ここがどこかわかるなにかはないか。

 慎重しんちょうにあちこち触って確かめる。引き出しも全部開けてみる。

「……はぁ……」

 無い。脱出口はおろか、情報のひとつもなさそうだ。

 あきらめて下の階に戻った方が良いのだろうか。


「あ……」

 そうだ。そういえば、僕以外にもう三人も人がいたんだ。もしかしたら、まだいるかもしれない。そして、運が良ければ、その人はもうここがどこか気付いているかもしれない。

 そうと決まれば、作戦変更だ。ここについてあれこれ調べるのではなく、他に人がいないか探そう。


 まず、この階の確認だ。

 階段を登ってくると、奥に伸びる廊下ろうか。廊下の奥には花瓶かびんがあり、登ってきた階段から花瓶に向かって右側に部屋がふたつある。

 ユキさんは奥の部屋から出てきた。

 この階に人がいるとしたら、手前の部屋だろう。同じ部屋に人がいれば、ユキさんだって教えてくれるはずだ。


 手前の部屋の扉をノックする。

「すみません、誰かいませんか?」

 少し声を張って、いるかもわからない部屋の中の人物に話しかける。

 が、返事はない。人はいないのだろうか。

 この部屋にいないなら、ひとつ上の階だろうか。


 ひとつ上の階——おそらく三階——に向かって階段を登る。

 三階に着いて初めに階全体を見回すが、僕が初めにいた階や二階と形状けいじょうはほとんど変わらないように見える。


 部屋は全部でひとつ。二階よりも、僕が初めにいた階に近い形状だろう。

 三階の唯一ゆいいつの部屋をノックするが、反応は無い。

「……あの、誰かいませんか?」

 そう声をかけると、部屋の中から『ひっ』と小さな悲鳴のような声が聞こえてきた。

「すみません、開けてもらえませんか? ここに閉じ込められてしまったみたいで——」

 待った。本当に閉じ込められたのか? そもそも、ここはどこなのだろうか……?

 雰囲気ふんいき普通ふつうじゃないけれど、もしかしたらここは住居で、僕が引っしてきたんじゃ……?

 いや、たしかにマリアさんは僕と同じような状況だと言っていたけれど、よく考えたらひかりちゃんやユキさんはそんなこと言っていなかった。


「…………なんでしょう」

 考えごとをしていたら、扉を開けてくれたみたいだ。女性の声にはっとして扉の方を見ると、少しとはいえ開いていた。

「あの、なにがあったかわからないんですけど、気がついたらここにいて。もし良ければ、お話を聞かせてくれませんか?」

「……お断りします」

 女性のきっぱりとした声の直後、扉がパタンと音を立てて閉まった。

 ああ、姿を見ることすらできなかった。けれど、まだここに人がいることはわかったんだ。それだけでも大きな収穫としよう。

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