第2話

3.雪に咲く薔薇

 カーペットがかれた階段を登り、ホールのようなあの場所のひとつ上の階に行く。

 初めにいた階と似たような構造。違うところがあるとすれば、部屋の数だろう。初めにいた部屋は部屋がひとつなのに対して、この階は部屋がふたつあるようだ。


 それぞれ部屋を開けようと試みるも、やはり開きそうにない。かぎがかかっているんだろう。

 途方とほうれる。このまま階を変えてもきっと意味はないし、かといって立ち往生おうじょうするわけにも——。


「わわわっ、もう、びっくりするじゃない! だれ?」

 真後ろから声をかけられ、体がびくっとふるえる。ここに来てから、ロクな事がない——。

「あ、ぼ、僕は柴谷翔です」

 真っ黒な髪に、真っ赤なドレスのようなワンピースを着た女性。なんというか、薔薇ばらみたいだ。

「……そ。私は……ユキとだけ言っておくわ」


 **


「それじゃあ、私は下に行ってるから」

 階段を降りながら、顔の横で手をひらひらと振るユキさん。

 さっきから、マリアさんやらひかりちゃんやら、おとなしい感じの子たちばかりだったからか、気が強く感じる。感覚が麻痺まひしているのだろうか。


「………………」


 **


 私は、母が大嫌いだった。

 よく変な男を連れて家に帰ってきて、家事もせず男と部屋に引きこもって。

 部屋かられる音を聞きたくなくて、いつも必死に耳をふさいでた。


 ギシギシ、ベッドがきしむ音が聞こえたり。パンパン、なにかを叩く音が聞こえたり。

 わけのわからない声だって聞こえてくる。悲鳴ひめいのような、心地悪い声。


 本当に嫌いだった。

 嫌いだったのに——結局けっきょく、私は母と同じ道を辿たどった。

 変な男を家に住まわせて、家事もせず男と部屋に引きこもって。だって、ほとんど変わらない。


 私は、母と同じちた。

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