エピローグ
「起きて! ねぇ、ねぇってば!!」
頭にガンガンと響く甲高い声。その声によって、夢の中から強制的に引き戻される。
「なんだよ、うるせぇな」
「やっとみんな起きた! チヒロンが一番最後だよ! それでね、それでね、話したいことがあるの! あのね、わたしね、夢見たんだよ! みんなが変な格好して、RPGみたいに剣使ったり魔法使ったりしてる夢! わたしはなんかそれを画面越しに見てるんだよ! 結局これって、RPGの世界に入れるんじゃなくて、そういう夢が見れる睡眠術とかなのかな?」
寝起きの身体にこの声とテンションはきつい。ふと見ると、外は夕焼けに染まっていた。
「面白かったからもう一回やりたい! もう一回やろう!」
「ダメ! ダメよ。絶対に」
少女の手にあった紙が奪われ、バラバラに破られる。もうすでに原型は留めていない。
「あー! せっかく手書きで忠実に書いたのにー! ノリコのケチー!!」
「ケチで結構。次は別の遊びを考えてくる事ね、脳なしキリカさん」
「ちょっと! 脳なしってなに!?」
「バカキリカー!!」
「ウララまで!!」
騒ぎ出した女子三人に、覚醒し出した脳の処理がようやく追いつく。あれは夢じゃなかった。少なくともオレにとっては。
手のひらを開く。そこには、僅かに今まで無かったタコが出来ていた。
「剣ダコだね。多分あれは夢なんかじゃなかったんだよ」
キヨミチが後ろからオレの手をのぞき込む。そして、自分の手も並べて、竹刀とは違うタコだと笑って言う。
「まぁ、でも、楽しかったよな。二度と御免だけど」
「オレはキヨミチのキャラが違いすぎて今も信じられないんだけど」
「育ちが違うから仕方ないよ。あれは僕であって僕じゃないんだ。チヒロだって、違っただろ」
「オレはそんなに変わらないさ。村人Cぐらいの平凡なヤツ」
「勇者様が何をおっしゃいますか」
「からかうなよ」
ごめんごめん、と笑うキヨミチに、あぁ、戻ってきたんだなと思う。
ここはオレたちの元いた世界で、あの世界とは違う。あの世界にはきっとあの世界のオレたちがいた。たしかにもう二度としたくないけど、楽しかった経験だ。みんながいたからこそそう思える。
「チヒローン! 早くしないと部活終わちゃうよ、男バス部長!」
「誰のせいだと!」
「えー? なんのこと?」
「キリカ! いいかげんにしなさい!」
「うわー! ママが怒ったー!」
「誰がママよ!」
やっぱりオレはこの世界が、コイツらが好きだ。永遠にも続くかと思うほど賑やかで穏やかなコイツらとの関係が。改めて七人を見渡す。あの世界とはまるで違ういつもの日常。俺のいる世界は、たしかにここなんだ。
WORLD 紫垂 @syoran
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