第十四話 THE・END
翌日、城に近づくオレたちに強力な魔物が、と思ったが、まったく出てこなかった。いや、視線は感じる。なにかに怯えるように遠くから見られている。
「なんなんだ? てっきり襲ってくるもんかと思ってたけど……まぁ、いっか。入ろうぜ!」
躊躇わず入っていくロクロウに続いて入る。中にも魔物はいる。けれど襲ってくる気配はない。
「やっと来たー!! 待ってたよー!!」
広間の真ん中。使い魔が嬉しそうに跳ねている。
「彼女は私が相手をしなければ行けない気がするんです。私に任せて先に行ってください!」
「なら、俺も残るか」
「んー? 良いよー! 相手してくれるなら、行っていいよ。倒してから追いかけるね」
「本当に大丈夫なのか?」
「心配すんなって。すぐ追いかけるから先行けよ」
「絶対だからな!」
「おう!」
オレたちはキヨミチとロクロウを残して先に進む。すぐに追いつくだろうと信じて。
大理石で出来た階段を登った先、オレの倍ほどの高さのある大きな扉。その迫力に躊躇するオレと違い、カノが開こうと扉に手をかけたその時、扉がひとりでに開いた。
「うわっ!? ひ、開いた!?」
「おや、客とは珍しいな」
声の主は部屋の扉からちょうど対面の位置に玉座に座り、フルーツを口に運んでいた。傍らにはネコのような顔をした魔物が控えている。
「あなたが魔王様?」
「一応そう呼ばれてるよ。ほら、入って入って。アタシは人間にどうこうしないから」
「じゃあ、世界中で人に危害を加える魔物は?」
「あれはアタシの支配下じゃないのよ。ここに来てから襲ってきたヤツいた?」
そういえば、いなかったか。いや、一人いる。
「あの人型の使い魔は……」
「あぁ、ウララね。ごめん。あの子はアタシも制御出来ないのよ」
笑いながら話す彼女が悪いヤツには到底見えない。オレたちは部屋の中へと足を踏み入れた。
「アタシはコユキ。アンタたちに攻撃しただろう小さいのがウララよ」
魔王の名乗りにオレたちは顔を見合わせたあと応えた。
「オレはチヒロ」
「私はノリコよ」
「……カノ」
「へぇ。チヒロ、ノリコ、カノね。勇者は、真ん中のアンタ?」
「……一……応……?」
「一応って。まぁ、いい。見ての通り、アタシは人に危害を加えていない。それがわかったらアンタが私を倒す必要なんてないだろ?」
「そう……なのか……」
じゃあ、オレは何のためにここまで来たのか。平和な村を旅立って、魔物と戦いながらはるばるやってきたこの旅路はなんだったのか。
「でも、楽しかったでしょう?」
たしかに、楽しかった。カノ、ロクロウ、キヨミチ、ノリコと旅した期間はそう長くなかったけど、どこか懐かしく、あたたかい。前から知ってたような気心の知れた仲のような、そんな穏やかで楽しい旅だった。
「戻りましょう。私たちの元いた場所へ」
戻ろう。オレたちの元いた場所へ。
「じ・えんど」
明るい声が響いた。そして、オレの意識は白いモヤの中へと静かに落ちていった。
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