共和国:グレーター・マジック・ミサイル
姉が火竜姫と
「よろしゅうございますか、お言葉ではありますが」班長は言う。「制御機構も燃料パイプも、要求仕様を全項目計算しなおして軽量化に臨んだんです。われわれはビスひとつだって、邪険に扱うことはしていません」
「そ・れ・が、自らを試験場ごと吹き飛ばした
「ですから。今日までに七度の模型試験と二度の実機試験を経たうえで、自信をもって送り出した自慢の子をですよ、吹き飛んだのは技術班のせいだと一方的に言われましても」
「成る程」姉はひらりと返した掌で、ひどく優雅に班長の顔を指した。先ほど火球を生み出した同じ掌だ、さすがの班長も身じろぎをした。「では
「んわははははははは」デッキの方から楽しげな笑い声。「議論白熱だな、いやけっこう、けっこう」なんとまぁ、元首閣下ご本人だ。班長は悠然と、閣下に向き直って片膝をつき頭を垂れた。班長の薄い頭頂が目立つ。閣下の笑い声に振り返り、半呼吸ほど遅れて、姉も周りの技術者たちも同じ姿勢で礼をとる。
「このままで失礼します」わたしは動き回っている観測班の面々を代表して、術式を維持したままで、閣下に向けて小さく言った。観測機器を巻き添えに燃えつきてしまった第3エンジンの試験結果を調べるには、魔力の残り香を観測し続けるくらいしかしようがない。たいした役には立たないだろうけど、消えゆく残り香を何もせず見逃してしまうわけにはいかない。閣下はわたしに短く手を挙げて、そのままで構わないと言下に示した。屈強な護衛の空軍兵たちに囲まれて、小肥り笑顔の閣下の立ち姿は、一見、微笑ましくさえ見える。いちばん危険なのは閣下ご本人だというのに。
「原因はまだ調査中だと聞いているが」閣下はそう言って、すこし間をおいてから、わたしのほうにちらと目を向けた。
「はい」わたしは応える。「エンジンが術式に耐えられなかったのは確実です。術式が発現した魔力量がどの程度だったのか、いま観測班で、魔力の残沚をできる限り集めて調べています。エンジンのどこが問題だったのかは、ええと」わたしは技術班長に目を向ける。技術班長はわたしの言葉を継いで続ける。
「エンジンについては、魔力残沚が薄まって安全確認いただけ次第、技術班で残骸の回収から調査開始します。この状況ですので」班長は試験場跡をちらりと見てから続けた、「調査開始は明朝からとなる見込みです。残骸の状態によっては、原因特定が不可能と判断される可能性もあります。」
姉は目を伏せて大人しくしているが、だいぶ不機嫌なのは、わたしには分かる。
「この際だから、はっきり言うが」満面の笑顔をたたえたまま、閣下は言った。あ、これ、かなり怒ってるな。「犯人探しには興味はない。大洋を越えて合衆国本土にまで
「はい、」班長は顔を上げ、言葉を選ぶためか少し時間をおいてから続ける、「二点の変更を同時に試験するのは、いわば掛けでした、成功すれば一石二鳥で資源も時間も節約できますが、失敗すれば、二点のいずれが原因だっのか切り分けるなど、余分な時間がかかります」
「あぁ、その説明を試験前にしてくれたことは、よく覚えているよ。分の悪い掛けだったとも理解している」閣下は言った。「つまり、私は掛けに負けたのだ、今回はな。それは私の判断だ、諸君らはただ私の代理で
「おっしゃる通りでございます」班長がまた頭を下げた。
「二点について、改めて教えてほしい。エンジンのほうから聞こうか」
「はい」技術班長は今度は淀みなく話し始めた。エンジンは、3分の1の重量で既存の2倍の耐久性を持つという、新素材と新工法との組合せ。触媒は、
技術班長の話の終わりに被せて、わたしは口を挟んだ。「観測の結果をまとめました、概算ですが、今回発現された魔力量は、前回の3倍以上、5倍未満、だったようです、小規模な試験以上の性能があったのでしょう」
「ほう」閣下の笑顔が変わった。今度はどうやら、楽しんでいるらしい。「イェン家の火竜姫の息吹は、今回の細工物には強力すぎた、ということか」そう言う閣下の視線を受けて、姉は閣下と同じ種類の笑みを浮かべたが、特に声には出さずただ黙礼した。
「技術班長。3分の1の重さで2倍の耐久性なら、同じ重さで6倍の耐久性も実現可能、と考えてもよいか?」
「理論的には確かに可能ですが、その」班長は珍しく言い淀んだ。「…特定の術師に依存するエンジン設計は汎用性に乏しく、兵器としての長期的な運用に支障がないでしょうか?」
「この新兵器を長期運用できるまで、我が国が亡びずに持ちこたえると、保証してくれるのかね、きみ?」自嘲的な亡国
「承知いたしました、軽量化に替えて耐久性を最優先事項とし、可及的速やかに再設計をいたします。」
「任せる」閣下はこちらに顔を向けた、「今日は観測班長と呼んたらよいのかな、白竜姫? 観測結果の詳細は、明日の朝に聞こう」
「はい、明日朝までには、技術班長と政務官とに共有しておきます」わたしは応えた。閣下は私の声を背に、高らかに笑いながら、空軍の風精術兵たちとともに、デッキの上へと歩み去っていった。
ティルトウェイト・ラプソディ もあいぬ @moaiwithadog
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