→→こちらがキメラ体験場です

ちびまるフォイ

キメラは持ち出し厳禁です。

「あなた、う、う、生まれそう!!」


「わかった! 病院へ行こう! 手も握るから!!」


「それはいいから。というか来ないで」


「ええええ……」


なぜか妻から出産に立ち会うことを禁止されてしまった。

苦悶の表情を見られたくないのだと自分を納得させたが、

家でひとり過ごしていると「もしかして嫌われてる」と嫌な考えばかりうかぶ。


「よし、気分転換に外へでよう」


妻が出産してからは戻ってきていいと連絡を受けたので

それまでどこかで時間をつぶそうとふらふら出歩いた。


いつも通らない道を通っていると、見慣れない場所を見つけた。


「キメラ……体験場?」


「いらっしゃいませ。あなたもキメラを体験しますか?」


そう聞いた男の首から下はゴリラだった。

めっちゃ強そう。


「その体……ゴリラですよね。すごく強そう」


「ええ、握力がえげつないほど強いですよ。あとうんこ投げたくなります。

 もやしっ子の私でもスーパーマンになったような気分です」


「それは楽しそうだ」


妻のお産まで時間があるので、俺もキメラ体験してみることに。


「では、このカタログから選んでください」


男から渡されたカタログには動植物がびっしりとのっている。

右手や左手だけキメラ化したりと部分キメラもできるらしい。


「チーターの下半身と、犬の鼻、イルカのソナーに……それにそれに」


さまざまな動物とキメラ化してもらえると体の劇的な変化に驚いた。


「わっ! す、すごい!! これがキメラ化!」


「どうです。すごいでしょう、感動でしょう」


「はい! めっちゃ走りたくなりますね!!!」


足はジェットエンジンがついたようにはやく、

ソナーを出せば見えないものも立体的にとらえられる。まさに超能力者。


「すごいですね! キメラ化!」


「気に入っていただけて幸いです」



「ところで、カタログはこれだけですか?」


軽い気持ちで男に尋ねると、男はにやりと口の端を持ち上げた。


「ふふ、さすがですね。じつは裏メニューがあるんですよ。こちらへどうぞ」


奥へ進んだ先にあったのは、宇宙人の標本だった。


「宇宙人とのキメラ化、試してみたくなりませんか?」


「宇宙人と……!」


ごくり。

どんな能力が体験できるのか想像もできない。


「キメラ化、やらせてください!!」


「わかりました。ではいったんキメラ化を解除しますね」


合成していた動物をはずして今度は宇宙人の体をキメラ化した。

今まで体験できなかったほどの感動が待っていた。


「うおおお! 宇宙人すげぇぇぇ!!」


「でしょう。人間よりもずっと頭が良くて、なんでも作れちゃうんです」


キメラ化した宇宙人の体から記憶が流れてくる。

この宇宙人は人間に化けて地球にやってきたやつらしい。


「自分の好きなように擬態もできるんですね!」


「ええ、あこがれの芸能人にだって化けれちゃいますよ」


宇宙人のスーパーコンピューターばりの知能があればなんでもできる。

そのうえ擬態能力まであるなんて最高すぎる。


「あの……このキメラ化って、お金出すから買い取りって――」


「だ め で す」


「デスヨネー」


「あなた以外に、どれだけの人が宇宙人とキメラ化したいと思ってるんですか。

 裏メニューにしたのは人気がありすぎるからなんですよ」


「……わかりました、諦めます。キメラ化を解除してください」


「また体験したくなったら来てください」




キメラ体験場を出て、誰にも見られない路地に入ると思わず叫んだ。


「っしゃー!! 気付かれなかった!!!」


俺の体はまだキメラ化しているこがバレなかった。

宇宙人のキメラを持ち出すことに成功した。


あの男はちゃんとキメラ化解除したと思っているが、

俺の宇宙人能力で作った擬態だと気付いていない。


「ふふふふ……人間ごとき、出し抜くなんてヨユーだぜ」



どんな擬態をも見抜く宇宙人アイ。

完全なるカムフラージュ能力。

サイコキネシスに瞬間移動。


この体さえあればどんなこともできる。


なにをしようかと夢を広げていたところ、病院から連絡があった。



『おめでとうございます! 産まれましたよ!』


「本当ですか!! すぐ行きます!!」


体を透明化して瞬間移動して病院へ到着。

透明化を解除して病室にかけこんだ。


「あなた! 見て! 元気な赤ちゃんが生まれたわ!!」


「ああ、ああ。本当にありがとう! これで俺もパパか!」



赤ちゃんを抱き上げた瞬間、その子が人間に擬態していることがわかった。

ただしく言えば、人間と宇宙人のキメラだと気付いてしまった。


「え……これ……」


宇宙人の擬態能力は同族しか見破ることができない。

それじゃまさか……。



「あなた、どうしたの? ちゃんと元気な人間でしょう?」



ふと、妻の顔を見ると擬態前の本当の顔が俺の目に映っていた。

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