それは、よかった!

長束直弥

掌編ミステリー

それは、よかった!/Glad to hear that!

「店長、昨晩バイトの帰り道、痴漢に襲われそうになったんです」


「えっ!? それで、大丈夫だったのかい?」

「ええ、何とか大声を出したら慌てて逃げて行きましたから」


「それは、よかった!」

「はい」


「でも、そんなことがあったのに今日もバイトに入ってくれて助かるよ」

「ええ、アルバイトの人数が減って、お店も大変でしょうから……」


「ありがとう。でも、また帰り道で痴漢が出るかも知れないよ」

「まあ、少し遠回りになりますが、今日からは帰り道を変えようと思っています」


「そうか……。そうだな、それがいい。で、その痴漢、どんな奴だった? 顔とか特徴とか?」

「それが……、襲われそうになった場所が人通りの少ない薄暗い路地裏だったうえに、その痴漢――黒っぽいニット帽を目深まぶかにかぶっていたし、マスクもしていたので」


「――わからなかったんだね」

「ええ、それに、あまりにも突然のことで気が動転してしまって、そんな余裕は……」


「それで……、警察には届けていないのかい?」

「ええ、まあ、たいした被害もなかったことですし……」



 ――それは、よかった!



          <了>

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それは、よかった! 長束直弥 @nagatsuka708

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