しんたいりく


 動かす者のいなくなったふね・・が海原をゆく。

 雨と時化に幾度もさらされ、塗装は剥げ、あらわになった鉄肌も錆びはて……それでも、ひこうきから移された航法装置はかろうじてふね・・のバランスを取り続けていた。


 そうして海流に流され続けたふね・・は、長旅の果て、ついにおかへとたどり着いた。潮に削られて荒れ果て、草木すらも生えぬ、動くもの一つない岸辺。誰一人として迎える者のない海岸に。


 ――いや。

 迎える者がいた。

 鈍色の海と空に、暖かい迎えの声が響いた。


" Give me your tired, your poor,

Your huddled masses yearning to breathe free,

The wretched refuse of your teeming shore.

Send these, the homeless, tempest-tossed to me, "


 声を発しているのは、大きな像だった。

 苔生こけむし、朽ちかけ、幾年月の堆積で身の半ばまでを土中にうずめて、なおも立ち続け、松明を掲げ続けている像。安住の地を求めて海を渡る者たちを、いつの日も迎えてきた像。動かぬ唇で全世界の流浪の民に歓迎の声を発し続ける女神の像。


" I lift my lamp beside the golden door! "


 その声に答えるかのように。

 ふね・・の底に転がっていた青く平たいいし・・が、ぴくりと動いた。


 博士ダイダロスが用意した翼は、溶けることなく友達イカロスを運びきったのだ。

 B-2爆撃機ひこうきの故郷、かつて自由の国と呼ばれた場所、新大陸『しんたいりく』へと。

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そらとぶゆめ 銀冠 @ginkanmuri

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