第5話 幸運な取引

人類は宇宙進出を決めた。


それは栄光への架け橋ではない。

もはや地球の資源を消費しきったが故の苦肉の策である。

繰り返し言おう。それは栄光への架け橋ではない。

選ばれた人間が宇宙を旅する話ではないのだ。

ボトルに手紙を入れて海へ流すレベルの話である。

1970年代に人体図を乗せた宇宙探査船を打ち上げた頃と本質的には何も変わっていない。

地球の生態・資源、要は物的交渉に使えそうな情報とAIを乗せて闇雲に打ち上げるのみである。

AIと言っても古典SF作品に登場するような、人間と同レベルもしくはそれ以上のものではなかった。

音波・電波・電磁力・重力子等を用いた未知のコミュニケーションを解析、使用が精一杯のAI。

人類の技術革新は素晴らしいスピードであったが、それに伴う資源の消費はさらに凄まじいものなのだ。

まさに人類全てが孤島の漂流者と化していた。


これは創作の話ではないのだ。

的の場所もわからずに投げたボールが当たるわけがない。

広い宇宙を飛ぶ探査船に至っては比べ物にならない。

人類の技術は産業革命以前まで後退し、近代以降の人口を支えられるはずもなく衰退の一歩を重ねていた。


もはや遠い昔に希望を乗せた船の事など忘れてしまった

幸運の星が降りてきた。

喪失した以上の科学・資源、それらと共にメッセージが届いた。

「あなた方の星が大変な危機に陥っていることを知りました。支援します。無論私達も無償で行うわけではないですが、今は回復に努めてください。その過程で副産物として発生するであろう物を私たちは頂きたいのです。」

人類は輝く地球を取り戻し、以前以上の繁栄を謳歌することとなった。


しかし最後の一文を忘れることなど出来なかった。

ほとんどの人間が、副産物とは人類の事である可能性を考えていた。

確証ではない。だからこそ人は不安を覚える。

その不安の解消は人間の養殖という形で現れた。

しかしその答えに確証などないのだ。

養殖で満足するならわざわざ人類を助ける意味などないのでは無いか。

確証がない故の不安。

ならばすることは1つだった。

自分たちを上の階級においてしまえば良い。


戦争である。

それは熾烈な争いだった。

昔のように核兵器で圧力をかける必要などない。

睨み合いでの引き分けなどない。

勝つことでしか安心できないのだ。


人口と地球の大部分が失われた時。

一つの星が降ってきた。

それは以前の幸運の星以上の技術や資源をもたらすものだった。

そしてまた一つのメッセージを。

「かつてない危機が訪れたようなので再度支援させて頂きます。私たちはお互いに幸運な取引だけを望んでいます。」


しかし人類はこれを信じることが出来るのだろうか。

見た目も生態も思想も科学力も全てが未知の知的生命体の言うことなど。

人類が宇宙に手を伸ばすには、こころが幼すぎたのだ。


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