第4話 社会の歯車
死の直前、タナカは自分の一生が社会の歯車であることを自覚していた。
それは自虐的意味ではなく、社会の一部として無くてはならないものとしてである。
そう思わない人や思いたくない人もいるであろうし、それが多数派かもしれない。
しかしタナカは死ぬまで歯車として生きた。
タナカは僻地出身であったが、たまたま上京して生活していた。
都会の方が仕事をし易く、上京したことはタナカには幸運だった。
タナカは自分の足で回る営業マンと言えた。
毎日あちこちを回って新規開拓をし、アフターフォローにも努めていた。
仕事ぶりは優秀だった。
そうこうしているうちに家族も増え、仕事の速度もより一層上がっていた。
ところがタナカの躍進を快く思わない者が対策を立ててきたのだ。
盛者必衰。
タナカの生命が脅かされる所まで来ていた。
しかしタナカは恐れない。
社会の歯車が無くなることを恐れない。
それは自己評価の低さから来るものではない。
自分がいなくなれば確かに社会は変化するのだ。
しかし社会という集団意識が変わるわけではない。
そこには確かにタナカが介在していた。
これから社会が向かう方向にタナカが影響を及ぼすことを疑わなかった。
自分という歯車は他者と噛み合い、その集合体が社会なのだ。
未来に思いを馳せながらタナカは逝った。
自分が引いたレールを先に繋げてくれる事を夢見て。
「ぶり返しやすい風邪なのでしっかり薬を飲んで安静にしてくださいね」
そう言われたことをベッドで思い出したスズキは一言、
どこからこの風邪もらってきたんだろうと呟いた。
タナカはぶりかえさなかった。
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