目じりをなごませた芙蓉に、朔は照れた。
朔はそっと胸に手を当て、本当に良かったとかみしめる。
覇権争いに負けた形を受け入れた朔の父は、後宮に送り込んだ娘の身を案じ、帝に願いを出して手元に戻した。するとそれを聞きつけた今出川実篤が、さっそく恋文を届けて変わらぬ想いを伝え、二人はめでたく結ばれる事となった。
「気が気じゃない日々も送ったけれど、結果としては大満足よ」
「こうして、姫様が姫様らしゅうお過ごしになられても、何もおっしゃらない方が夫となられて、芙蓉もうれしゅうございます」
目じりをなごませた芙蓉に、朔は照れた。
「朔」
声がかかり、二人は顔を庭の先に向けた。そこには、朔がふたたび来たと知って遊びに来た、里の子どもたちに囲まれた真夏がいた。
「舟遊びをしにいこう!」
子どもたちが手招き、顔を見合わせた朔と芙蓉は楽しげに腰を上げた。手を差し伸べて笑む真夏を、朔はまぶしく見つめる。
「今度は舟の上で、不用意に立ち上がったりしないようになさいませ」
芙蓉が軽く注意をすると、真夏は朔の手をしっかりとにぎって言った。
「姫が落ちてしまわないように、しっかりとこうして俺の胸に落としておくさ」
ひきよせられた朔は、恋する男の胸にその身を落とした。
恋に落ちた心が、笛の音のように寄り添いながら響きあい、天高くどこまでも浮かび、舞い上がっていく。
真夏の笛に 新月の舞う 水戸けい @mitokei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます