思い出の結晶

 よく晴れたある日のこと、社の縁側で神様を膝に乗せて一緒に鏡を覗き込んでいた。その鏡には人間とその友人である人形たちが映し出されている。

 神様がじっと見つめているのは、子供と、両親と、人形が、幸せそうに笑い合っている光景だ。

 僕も一緒にそれを見て、まだ人間として暮らしていた時の事を思い出す。あの頃は両親に愛されて、確かに幸せだったのだ。

 今が不幸だとは思わないけれど、喪ってしまった両親の事を考えると不思議と涙が零れる。

 涙は硬質な輝く結晶となり、神様の肩の上を跳ねてから鏡の中に吸い込まれていった。

 鏡の中の子供が、急に落ちてきた石を不思議そうな顔で拾って笑う。

 それを見た神様は、ふくれっ面をして鏡を叩いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る