天の結晶

 昨夜降っていた雪はすっかり積もったようだった。朝になって良く晴れたので、私は可愛がっている人形と一緒に散歩に出かけた。

 向かった先は、春になると菜の花畑になる広場。朝早いせいか、雪の上にはひとつも足跡がない。

 人形がこう言った。

「試しに雪を食べてみて良い?」

 確かに雪も結晶だし、この子にしてみれば味が気になるだろう。食べて良いよと言うと、一掴み雪を持って人形が囓った。

「美味しいけど、二酸化珪素が混じってるともっと良かったな」

 そう言って笑うこの子の瞳が、雪が照り返した光を受けて虹色に輝く。ああ、なんて眩しい光景なのだろう。私はあと何回こんな日を迎えられるのだろうか。人形とふたりで雪を踏んでそう思った。

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