第7話 動物園のヘンちゃんたち
その日、
ヘンちゃんが自分のオリに行くと、田中さんが掃除をしていました。ヘンちゃんがいつ帰ってきてもいいよう、毎日きれいにしてくれていたのでしょう。
「田中さん、ただいま!」
ヘンちゃんは田中さんに飛びつきました。田中さんは何度もなでてくれます。
「おかえり! どこに行っていたんだい」
「アフリカの森をさがしていろんなとこに行ったよ。最後は山からここまで送ってもらったんだ。何ていう乗り物だったっけ。たしか宇宙……」
ヘンちゃんは、宇宙船といいそうになった口を押さえました。「文明ヲ築イテイル知的生命体カラ私タチノコトヲ知ラレテハナラナイ。ダマッテオイテクレ」と頼まれたことを思い出したからです。くわしい意味はわかりませんが、秘密だということは間違いないようです。
「えっと、内緒!」
田中さんは不思議そうにして、ヘンちゃんの後ろにいる三匹をながめました。
「その子たちは?」
「ぼくの仲間なんだよ」
ヘンちゃんは田中さんの腕から降りて、三匹を紹介しました。
「一緒に暮らしたいんだ。いいでしょ?」
「ヘンちゃんが帰ってきてくれるなら何でもいいよ。今までさみしくさせてごめんね」
田中さんはにっこりして、ヘンちゃんをまじまじと見つめます。
「ヘンちゃん、いなくなる前よりも大きくなったみたいだね」
こうして、ヘンちゃんは丘伏市動物園で三匹と暮らし始めました。
時間によって一緒にいる動物が違います。昼間はポチ子で、夕方はネズ郎。ときどきミーミーと寝たり起きたり。
イヌネコネズミヘンナモンダのオリに他の動物がいるので、お客さんたちは不思議そうにします。でも、ヘンちゃんたちが仲よくしているところを見ているうちに「まあいいか」という気分になるみたいです。
変わったのはヘンちゃんだけじゃありません。
イヌネコネズミヘンナモンダは他の動物園にも何匹かいて、珍しい動物として一匹だけのさみしい暮らしをしています。でもヘンちゃんがネズミや猫や犬と一緒に暮らし始めたので、同じように他の動物をオリへ入れたらいいんじゃないかと考えられるようになりました。
やがて、ヘンちゃんにいくつかのビデオレターが届きました。どのビデオでもイヌネコネズミヘンナモンダが他の動物と仲よくしていて、ヘンちゃんにありがとうといいます。
ヘンちゃんはネズ郎やミーミーやポチ子と一緒にそれをながめて、自分たちが自分たちの「森」で仲よくしていることを誇らしく思うのでした。
完
ヘンちゃんとアフリカの森 大葉よしはる @y-ohba
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